チャーリー・カウフマンらしい“仕掛け”も 『オリオンと暗闇』のユニークな物語を解説

『オリオンと暗闇』が伝えるメッセージ

 さらに、キャスティングにも秘密がある。主人公オリオンを演じているのは、『ルーム』(2015年)の子役だった、ジェイコブ・トレンブレイだ。彼はカナダ出身の白人だが、その娘役のヒュパティアや、謎の少年ティコ、さらには、同級生サリーを演じているのは、皆アジアにルーツを持つ俳優だ。なぜ、このようなキャスティングになっているのかは、本作を最後まで観れば理解できるはずである。

 原作の絵本にさまざまな工夫があったように、まだ本作には、楽しい仕掛けが隠されている。“暗闇”がオリオンに、自分の存在を説明するときに見せるのが、自作した“超短編”映画である。そのクレジットに「ヴェルナー・ヘルツォーク」とあるように、このナレーションには、実際にベテランの鬼才監督ヴェルナー・ヘルツォークが声をあてている。ヘルツォークは、自作のドキュメンタリーなどで自らナレーションを担当したり、俳優としても活躍している。

オリオンと暗闇

 さらにその映画にクレジットされている「ソール・バス」は、映画のタイトルデザインで有名な人物。“暗闇”を紹介する映画を、そんな大御所たちが担当していたというのが、映画ファンにとって面白いユーモアになっている。ただ、ソール・バスの方は1996年に亡くなっているため、本作で実際にデザインをしているというわけではない。存命のときに“暗闇”の映画にかかわっていたというジョークなのだろう。

 “暗闇が恐い”というのは、多かれ少なかれ誰にでもある、人類共通の感覚といえる。本作では、ご丁寧にヒュパティアが、「人類が暗闇を恐れるのは、夜行性の捕食者から身を守るために身につけた進化的適応だから」と解説してくれる。

 そう考えれば、人が暗闇以外に、さまざまなものに恐怖心を持つこともまた、ある意味自然なことだといえるかもしれない。本作では、オリオンの度を超えた恐怖心を、“創造力ゆえ”だと解釈しているところもある。“暗闇のなかには、得体の分からない何かが存在しているかもしれない”、“自分の身に、何か恐ろしいことが起きるかもしれない”……このように想像してしまう感覚の裏には、クリエイティブな才能の種が眠っているかもしれないのである。

オリオンと暗闇

 だとすれば本作のメッセージは、子どもよりも、じつは子どもと一緒に本作を観ている親に向けられているのかもしれない。子どもが何かを恐がっていたとしても、それを強引に否定したり、無理に矯正してしまおうとするのではなく、その個性を認めて、本作のオリオンとヒュパティアとの関係のように、話し合いながら一緒に問題を突きとめられればいいのではないか。

 互いに心を通わせながら、乗り越えるべきところは乗り越え、伸ばすべきところを伸ばすような子育てができれば、こんなに素晴らしいことはない。本作『オリオンと暗闇』は、ユニークな物語を通して、このようなメッセージを伝えたいのではないだろうか。

■配信情報
『オリオンと暗闇』
Netflixにて配信中
監督:ショーン・シャルマッツ
脚本:チャーリー・カウフマン
出演:ジェイコブ・トレンブレイ、ポール・ウォルター・ハウザー、アンジェラ・バセットほか

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