『ブギウギ』に詰まった共助・互助の理想 朝ドラでスズ子をシングルマザーとして描く意義
「子連れ出勤」は笠置さんの史実に沿って作劇されている。この部分を果たして「令和仕様」にアレンジして「シッターを雇う」に変えてしまってもいいのだろうか。筆者は、この「子育て出勤」のエピソードは、モデルである笠置さんの「核」の部分であり、『ブギウギ』の核の部分ではないかと思うのだ。これは「母と娘」の物語だ。愛する人を失って失って失ったスズ子が、生まれた我が子と共に生きて、歌って、また生きる物語だ。
「スズ子がわがままを通して手元で育児することで、保育所に子どもを預けて働くママを否定することにならないか」という主旨のSNSの投稿も目にした。作り手がそんなことを望むなどあろうはずがない。もちろん、子どもを保育所に預けて働くママは尊重されるべきだ。同時に、働きながら自分のそばで育てたいスズ子も、そして笠置さんも尊重されるべきではないだろうか。スズ子はその選択をした。もちろん違う選択をするママもいる。どんな選択も本人の意思であれば尊重されるべきだ。それが真の「多様性の重視」ということではないのか。
このドラマは、共助・互助の理想も描こうとしている気がする。スズ子はきっと、子育て期に周りからもらった恩を、いつかツヤから教わった「義理と人情」で返していくだろう。個人への恩返しにとどまらず、広く社会に還元していくのかもしれない。現に今、日本中を奮い立たせる「東京ブギウギ」を歌い始めたことで、その入り口に立っている。
『ブギウギ』はなぜ大切な人たちの死を描いてきたのか “混ぜこぜ”の前半戦を総括
ドラマ前半を終え、2023年12月29日に放送された『ブギウギ』(NHK総合)の総集編・前編を観ながら、筆者は谷川俊太郎の詩『生…
本作は「人間の業」や「シビアで苦い現実」が精度高く描かれる一方で、第8週の「ゴンベエとアホのおっちゃんの桃」のような“ファンタジー要素”が時折差し込まれる。別稿「『ブギウギ』はなぜ大切な人たちの死を描いてきたのか “混ぜこぜ”の前半戦を総括」で筆者は「混ぜこぜ」と形容したが、この混沌が『ブギウギ』らしさだと思っている。
少しずつ足りない人たちが、少しずつ力を貸しあって生きてけばいい。「甘っちょろいファンタジーだ」「絵に描いた餅だ」と言われるかもしれないが、フィクションになら、祈りを込めてもいいのではないか。
シングルマザーのスズ子も、ボンボンのまま志半ばで亡くなってしまった愛助も、子を捨てたりつ子も、「ちょっとトロい」六郎も、飲んだくれでだらしなかったけれど今はちょっと更生した梅吉(柳葉敏郎)も、最期に母のエゴを置いて逝ったツヤも、借金から逃げて記憶を失ったけれど“ツヤの恩返し”で幸せになったゴンベエ(宇野祥平)も、毎日タダ湯をもらいにきていた恩を桃で返したアホのおっちゃん(岡部たかし)も、みんなそれぞれこの世で、あの世で、自分らしく暮らしている。そんなファンタジーがあってもいいじゃないか。
「東京ブギウギ」や主題歌「ハッピー☆ブギ」の「タッカタッカ」というリズムは別名「シャッフル」と呼ばれる。平坦ではない、この偏って跳ねるリズムがまさに『ブギウギ』なのだ。そういえばこの朝ドラは最初から今まで、ずっと「偏って跳ね」ていた。
生と死、禍と福、アイロニーとファンタジー、痛み、喜び、苦しみ、優しさ、怒り、愛。全部抱きこんで『ブギウギ』は進む。偏って跳ねるリズムに乗せて、スズ子は喉を唸らせ全身を躍動させて「東京ブギウギ」を歌う。これからは何があっても、愛子と、歌と生きていく。その姿はこれまででいちばん輝いていた。
参照
※https://maidonanews.jp/article/15017589
■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、生瀬勝久、小雪、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
語り:高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー)
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
音楽:服部隆之
主題歌:中納良恵 さかいゆう 趣里 「ハッピー☆ブギ」
写真提供=NHK
公式サイト:https://nhk.jp/boogie