『ウツボラ』桜と溝呂木の本当の関係は? 前田敦子が強欲でしぶとい“ファム・ファタル”に
中村明日美子の漫画原作を元にWOWOWでドラマ化された『ウツボラ』のDVD-BOXが発売となる。
謎に充ちた朱と桜という女性を演じるのは前田敦子。ふたりに翻弄される作家の溝呂木を北村有起哉が演じている。
物語は、溝呂木の元に警察から一本の電話が入るところからスタートする。飛び降り自殺で亡くなった女性・藤乃朱の持っていた携帯電話に溝呂木の連絡先が登録されていたからであった。溝呂木と朱とは出版社のパーティで知り合って数回会っただけと溝呂木は主張するが、そんな彼の前に朱と瓜二つな双子の妹、桜が現れる……。
魅惑的な登場人物は、朱、桜と溝呂木だけではない。溝呂木の担当編集者である辻真琴(藤原季節)は、溝呂木に対して疑いの目を持っており、溝呂木の姪である溝呂木コヨミ(平祐奈)は溝呂木の身辺の世話をしつつ、溝呂木に対してほのかな恋心を抱いている。作家の野宮愛(雛形あきこ)も、溝呂木関連の出来事に関心を抱いていて、辻、コヨミ、野宮も、それぞれが複雑な関係性を持っているのだ。
本作のように、2人の魅力的な女性が作家を惑わすという展開は、あきらかに「ファム・ファタルもの」である。男性の作家に、ファンの女性という関係性は、一見、ありきたりなようにも思えるが、スティーヴン・キング原作の映画『ミザリー』のような雰囲気もある。その上、一話の段階で、朱の書いた小説を溝呂木が盗作していたということが示され、朱、桜と溝呂木が単純な関係性ではないことがわかってきて、作品に対しての関心が高まってくる。
しかも、死んだ女性の顔の部分は破損していて、本当に朱かどうかもわからない。妹の桜も「朱なんて、ほんとは存在しないのかもしれない」とつぶやき、謎はどんどん深まっていく。彼女の言葉の通り、徐々に朱と桜という2人の正体も見えてくる。
しかし、なぜ桜と名乗る女性は、溝呂木に近づこうとしたのだろうか。ときに桜は、溝呂木に電話し、「私は先生に会いたいだけ、私はいつでも先生の傍にいます。私は先生のものなんです」と泣きながら言うほどに執着している。この執着の正体は何なのだろうか。
個人的には、桜は何らかの目的、もしかしたら復讐心などもあって溝呂木を破滅させるために、あえて溝呂木を求める演技をしているのだろうかと考えてしまったが、それが正解だとも思えない。姉である朱が『ウツボラ』の作者であり、彼女に変わって盗作をした溝呂木に復讐しようとしているのだろうか、それとも桜が実は『ウツボラ』の本当の作者であって、そのために盗作をした溝呂木に近づいたのだろうか、と深読みがいくらでもできてしまう。