『ブギウギ』スズ子の帰る場所であり続けた愛助 ヒロインのキャリアを支えた恋人として

 愛助(水上恒司)が目に見えて痩せてきてしまっているNHK連続テレビ小説『ブギウギ』第18週。物語に登場した当初は穏やかではあれど快活さに溢れていて、福来スズ子(趣里)を語るときの熱と言ったら凄まじかった。しかし、嬉しそうに彼女のレコードを触っていたあの手も、今やすっかり細くなってしまっている。病気による体重減少や衰弱を、ここまで視覚的に表現する俳優・水上恒司の演技から溢れる熱意。趣里が見事にカルメンを体現するなか、彼らはスクリーン上で共に映らずとも互いに素晴らしいパフォーマンスをセッションしあっている。

 振り返ってみれば、愛助は最初こそ不安な要素のあるキャラクターだった。いわゆる“ヒロインの相手役(恋人)”の立ち位置にいる登場人物は各朝ドラに必須と言っていいほどお馴染みの存在であるが、それでいうと愛助は最初から「ヒロインを応援する」相手役だ。歌手・福来スズ子のファン歴も長く、初対面の頃は恥ずかしくて話しかけることもできなかった。しかし、それから偶然が重なると彼は変に“ファンボーイ感”を出さず、目の前にいるスズ子に対して歌手として以上に“一人の人間”として向き合う姿が印象的だった。もちろん、女性として彼女を意識していたものの、それ以前に人に対するリスペクトを感じられる。それが愛助の良いところだろう。彼の優しさは、初対面の頃から彼に失礼な態度をとっていた小夜(富田望生)への対応からも窺える。

 何より、彼は節目ごとにスズ子のキャリアを応援し続けてきた。戦禍でも、戦後でも。彼女に自信がなくなった時、一番に彼女が“福来スズ子”であることを思い出させてくれたのは愛助だったのだ。慰問で地方を回らなければいけなかった時も、自分との結婚を条件に歌手を辞めさせられそうになった時も、愛助は自身を二の次にして彼女の歌を聞かなければいけない人々のことを想った。自分自身も、福来スズ子の歌に救われた者の一人だからだ。村山興業の跡取りとして市井の人々が求めるエンタメを真摯に考え続ける一方で、スズ子自身が自覚しない、彼女にとって必要なことに対してまでも自覚的。年齢に比べて熟成された彼の心は、スズ子の精神の支えとなってきた。いや、案外こういうのは時に年下の彼の方が頼り甲斐があったり、優しく寛容でいてくれたりするものかもしれない。

 彼自身は戦争にいけなかったことへのコンプレックスを抱えており、体の病弱さが時々強調して描かれてきたが、それと同時に母のトミ(小雪)や坂口(黒田有)に対しても大きな声で自分の意見を主張する強さが映されてきた。最初にトミに結婚を反対された時、スズ子は彼女が暗に「別れろ」と言っていることを瞬時に理解したのに対し、愛助ができなかったことなど、彼自身もナイーブな部分はある。しかし、だからこそ空気を読んだり義理を優先しすぎたりして自己の望みを蔑ろにしてしまうスズ子が言えないようなことを、代わりに言ってくれる存在だったのだ。

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