『ある閉ざされた雪の山荘で』に訪れた“嬉しい誤算” 重岡大毅&岡山天音の成長譚に注目

 だが実は、ややこじらせためんどくさい役者は、演劇エリート集団「水滸」側にもいる。

 岡山天音演じる田所義雄だ。岡山は、今こういう役をやらせたら日本一の俳優である。

 先述の突然のタメ口にキレる男が、この田所だ。

 「目立ちたい根性」のにじみ出た、その特徴的な坊ちゃん刈り。同い年の久我にライバル意識をむき出しにして、やたら突っかかるさま。

 またこの田所も、久我と同じく常にジャージである。しかも、学校名の入った陸上部時代のジャージだ。

 体育会系の人間が芸術分野に興味を抱いた時、“肉体芸術”である演劇を選ぶケースは多い。

 だが、頭を100%俳優にシフトチェンジできればいいのだが、「アスリートだった俺」を中途半端に引きずっている。「自分はただの頭でっかちな役者ではない。もともとアスリートだ」ということを、さり気なくアピールする。それが本人にとってはアイデンティティでもある。だが周囲は、彼がなんのスポーツをやってようが、どんな実績があろうが、興味はない。空回りである。

 筆者も「格闘技出身をアピールしたい役者」だったため、芝居の稽古前にガチめのシャドーボクシングなどをしていた。女子の目をチラチラ意識しながら。あの頃の自分を、撲殺して山に埋めたい。

 この、現役アイドルと若手個性派俳優のライバル関係という図式には、既視感がある。

 若き日の加山雄三の代表作である『若大将シリーズ』がそれだ。

 “大学の花形運動部部長の若大将・田沼雄一(加山雄三)が、ライバル・青大将(田中邦衛)の妨害もものともせず、恋にスポーツに大活躍!”というストーリーである。スポーツの種類が変わるだけで、ほぼ全作そんな話だ。

 このシリーズの若大将は、常に「エースでリーダーで主役」だ。今作の重岡大毅が当てはまる点は、主役だけである。

 でも大丈夫。

 劇団エースとしては間宮祥太朗、劇団リーダーとしては戸塚純貴がちゃんと配置されている。「若大将3人VS青大将1人」という図式になってしまった。

 不利な戦いを強いられるが、岡山天音なら大丈夫だ。彼は、“令和の田中邦衛”になれる逸材だと思っている。本人がそこを狙っているかはわからないが。

 この物語は、原作者・東野圭吾が二重三重に張り巡らしたトリックがキーとなる。決して、単なるありきたりな“密室もの”ではない。結末には本気で驚かされたし、ネタバレは厳禁である。

 今作はストーリーもトリックも原作に沿ったものだが、映像化にあたって付け加えたシーンや設定がある。正直に申し上げると、それがすべて成功しているとは思わない。

 だが、終盤に久我と田所の人間的成長を匂わせるシーンがある。これも原作にはなかったシーンだ。

 田所は、久我に歩み寄ろうとする(久我には拒否されるが)。このシーンのツンデレ具合は悶死必至だ。

 そして、久我の芝居に対する心境の変化と成長。これもネタバレしたくないので詳述は避けるが、この作品においていちばん大切なのは、このシーンかもしれない。

 筆者はもともと原作を読んでいたので、本格ミステリーを期待して行ったら、悩める若者たちの成長譚を見せられた(もちろん、本格ミステリーとしても素晴らしい)。

 「改悪」はダメだが、これは嬉しい誤算でもある。

 これも映像化の醍醐味だし、だから映画は面白いのだ。

■公開情報
『ある閉ざされた雪の山荘で』
全国公開中
出演:重岡大毅(WEST.)、中条あやみ、岡山天音、西野七瀬、堀田真由、戸塚純貴、森川葵、間宮祥太朗
原作:東野圭吾『ある閉ざされた雪の山荘で』(講談社文庫)
監督:飯塚健
脚本:加藤良太、飯塚健
音楽:海田庄吾
制作プロダクション:ファインエンターテイメント
製作幹事・配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2024映画『ある閉ざされた雪の山荘で』製作委員会 ©東野圭吾/講談社
公式サイト:https://happinet-phantom.com/tozayuki/
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