物議を醸した司会に歴史的受賞も 第81回ゴールデングローブ賞の問題点とゴシップを解説
1月7日(現地時間)に行われた第81回ゴールデングローブ賞の話題がまだネット上を賑わせている。『オッペンハイマー』が最多5部門を受賞し、続く2部門受賞作が『落下の解剖学』、『バービー』、『The Holdovers(原題)』、そして1月26日に日本公開が迫る『哀れなるものたち』である。同時にテレビ部門でも『メディア王〜華麗なる一族〜』や『一流シェフのファミリーレストラン』、『BEEF/ビーフ』など人気作の受賞が相次いだ。
ハリウッド外国人映画記者協会(以下、HFPA)の投票結果を受け、作品を讃えるGG賞はアカデミー賞の前哨戦とも言われている。しかし、近年はそのHFPA会員に“一人も”黒人がいないことが発覚したり、会員の非道を協会が黙認するような状態だったり(ハーヴェイ・ワインスタインの性暴力黙認や、HFPA元会長がブレンダン・フレイザーをセクハラした疑惑と告発した彼への冷遇など)問題をあまりにも抱えすぎていた。
もちろん改善を求められたアワードは、“多様性を重視”するために様々な国籍の会員を追加、運営権利をHFPAからテレビ制作会社エルドリッジ・インダストリーズと投資会社ディック・クラーク・プロダクションズに譲渡するなど改革を行った。その改革の結果が望まれた今回のゴールデングローブ賞は果たしてどうだったのか。感動シーンと頭を抱えてしまった場面、そして世間を騒がせている授賞式内のゴシップの一部をそれぞれ解説していこう。
司会者ジョー・コイ、“史上最悪”レベルで批判の的に
さて、まずは明らかに問題があった今年のオープニングモノローグと、それを担当した司会者ジョー・コイについて触れたい。ゴールデングローブ賞の司会はアワードが始まった1943年から1981年まで不在だったものの、1982年から1994年までは著名の俳優がタッグを組んで務めてきた。しかし、再び2008年までホスト不在の放送が重なり、2009年のリッキー・ジャーヴェイスを皮切りに再び司会がいるアワードに戻った。そしてジャーヴェイスはこれまでに5回も司会を務めており、視聴者や会場に集まった参加者のお気に入りでもある。
司会者にはジャーヴェイスの他にもやはりセス・マイヤーズやジェロッド・カーマイケルなどコメディアンの起用が多く、今年のジョー・コイも例に漏れずスタンドアップコメディアンとして知られている。しかし、オープニングスピーチにおける彼のジョークはあまりにも杜撰で、会場から笑いはほとんど起きなかった。海外メディアやX(旧Twitter)では彼のジョークが「Cringe(イタい)」と表現されるほど。彼の何がそこまでまずかったのか。
コイは主に会場にいる人の名前を挙げて、その人を面白おかしく話していた。それ自体は「Roast(ロースト)」と呼ばれる人をからかうジョークで、特に海外ではよく親しまれているジャンルの笑いだ。日本で言うところの「いじり芸」だろう。しかし「Roast」は絶妙な匙加減が求められる。相手が本気で怒らずに「悔しいけど確かに言えている」と笑えるくらいのネタと物言いをしなければいけないのだが、コイの冗談は内容だけでなく伝え方も相まってうまくいっていなかった。
特に批判の対象となった発言は『バービー』とテイラー・スウィフトに対するもの。コイは『オッペンハイマー』を「721ページに及ぶピュリッツァー賞を受賞した原作から作られた、マンハッタンプロジェクトを描く作品」と紹介すると、「一方『バービー』はboobies(おっぱい)の大きなプラスチック人形のお話!」と笑ったのだ。もちろん、会場からの笑いは少ない。ちなみに「boobies」という単語チョイスもまた、小学生の作ったジョークのような幼稚な雰囲気を際立たせている。その後、彼は続けて「気持ち悪いって思ってほしくないけど(『バービー』を観ていて)プラスチック人形に惹かれた。あ、ケンの方ね。マーゴ(マーゴット・ロビー)、いつも君が話題の中心じゃないんだよ!」とまで言うと全くウケなかったことを誤魔化すかのように、「ほら見て! ロバート・デ・ニーロが会場に来ている!」とデ・ニーロ頼り。そしてスウィフトに関しては「ゴールデングローブ賞とNFLの大きな違いは、ゴールデングローブ賞はテイラー・スウィフトがカメラに映る回数が少ないことだ。誓うよ」と発言。これは最近、彼女がNFL選手のトラヴィス・ケルシーと交際中であり、試合に行くたびにカメラが応援席の彼女をしょっちゅう映すことを笑っているのだが、これに対してスウィフトは不快感を隠さず、ジョークにも笑わず、真顔で飲み物を飲んだ。
ジョークがウケないのは、ある意味仕方のないことだ。しかし、コイのあまり感心しないところは、『バービー』のギャグが笑いを取れなかった際に「おい! この仕事は10日前に引き受けたんだぞ! それで完璧なモノローグが書けるかって。黙っとけよ」と言い訳したり、「このジョークを書いたのは俺ではない」とライターに責任を丸投げしたりする瞬間があった点だ。こういったモノローグ、スピーチにはライターがつく場合があるが、コイだって事前に原稿を確認している立場だからそれ以前に思うことがあれば何か言えたはずなのだ。即席で、その場を自分なりに面白くする努力もできたはず。つまり彼の態度はある意味、コメディアンとしての仕事を放棄しているとも言える。
一方で、司会者が彼に決まったのが放送直前であったことも確かだ。なかなか司会が決まらなかった背景として囁かれている噂は、問題がありすぎて炎上しやすいゴールデングローブ賞のホストを誰も務めたくなかった、ということらしい。そのため、コイがそれを引き受けたことは勇気のある行動であったし、彼自身もゴールデングローブ賞で司会を務めることを喜んでいた。だからこそ一層、誰も幸せになれなかった今回のオープニングの悲惨さが増してしまうのであった。彼のオープニングの直後にジャレッド・レトが披露した自身のメソッド演技の自虐ネタの方がよほど面白かったことも、名状し難いものがある。
リリー・グラッドストーンの歴史的な受賞モーメント
批判されている部分もあるが、受賞結果はまずまずの印象だ。テレビ部門のリミテッドシリーズ部門において『BEEF/ビーフ』からアリ・ウォンとスティーヴン・ユァンの両者が初受賞したり、映画部門の助演女優賞を『The Holdovers(原題)』のダヴァイン・ジョイ・ランドルフが初受賞するなど、受賞者のルーツにばらつきが感じられる。何よりも、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のリリー・グラッドストーンの受賞は、先住民女性として初の主演女優賞受賞という歴史的な快挙となった。
グラッドストーンが受賞の際にステージに上がると、会場はその日一番の喝采とスタンディングオベーションで盛り上がる。グラッドストーンはまず、自身が血をひくブラックフィート族の言葉で「私の友よ、こんにちは。私の名は“イーグル・ウーマン”。ブラックフィート・ネーションからやってきました」と挨拶した後、「この会場にいるみんなが大好き」と茶目っ気のある笑顔を見せた。
「今、私は少しブラックフィートの言葉を話しました。美しいコミュニティであり、私を育ててくれた場所です。私がやりたいことをやれるように、応援し続けてくれました。母も会場に来ています。彼女はブラックフィートではありませんが、私が言葉を学べるために努力をしてくれたおかげで、子供の頃ブラックフィートの言葉を教えてくれる先生がいました」
そう語るグラッドストーンの受賞を誰よりも喜ぶオセージ族の人々の様子が、オサージ・ネーションによるYouTubeにて窺える。何を隠そう、オセージ族はまさに『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の物語に登場した先住民族だ。グラッドストーンは自身のコミュニティの代表としての誇りと名誉をスピーチの中で述べ、「歴史的な受賞だ」と歓喜した。故郷の言葉を話せたことは、過去の映画業界が先住民の言葉を表現する際に彼らが話した英語をサウンドミキサーで“逆再生”していた時期があったことを考えると、いかに重要なことであるか説明するグラッドストーン。そして結びに「この受賞は居留地にいる子供たち、都会で暮らす先住民の子供たち、そして全てのネイティブの子供たちに捧げます。夢を持つ彼らは、自身のレプレゼンテーションを通して物語が私たちの言葉で語られたこと、それを実現させるために素晴らしい仲間がいたことを目撃したはず」と語った。間違いなく、本アワードにおいて最も力強い受賞スピーチだったと言える。