『孤独のグルメ』が“飯テロドラマ”の王者であり続ける理由 松重豊の五郎さんに会える喜び

 今年も五郎さんが帰ってきてくれた。12月31日22時からテレビ東京系で、『孤独のグルメ2023大晦日スペシャル 井之頭五郎、南へ逃避行「探さないでください。」』が放送される。公式サイトの紹介文冒頭に書いている「今年の年末こそは絶対に休むんだ!」という文字に、どこまで行っても抜け出せない師走の忙しなさを突っ走ってきて、まさにラストスパートといったところの我々の心を五郎さん(松重豊)が代弁しているかのようで、思わず笑ってしまう。

 そして、「テレ東を訪れた五郎は、年末特番に出演してもらえないかと無茶ぶりの相談を受ける(一部中略)」という書き出しからして、いよいよ五郎さんと、演じる松重豊の同化が顕著になってきた今年の「大晦日スペシャル」。でもそれがいいのだと思うのである。まるでそれは、私たちが井之頭五郎であり、井之頭五郎が松重豊である証明のようで。

 『孤独のグルメ』は、美味しい食べ物と、人との出会いを楽しむドラマだ。そして、「誰にも邪魔されず気を使わずものを食べるという孤高の行為」であるところの「独食」の自由を知っている人は、その反対も知っているということを実感させられるドラマでもある。本作は言うまでもないが、「ドラマパート」と「グルメパート」の2部構成からなっている。

 『孤独のグルメ』はグルメパートだけでは成り立たない。なぜなら、グルメパートに直結するドラマパートこそが、本作の根幹部分を担っているからだ。ドラマパートにおいて示される、仕事をする五郎の姿。それはどこか、私たちが、仕事を通して他者と関わる、日々の姿に似ている。

 多くの場合、五郎は、クライアントの強引な依頼を、ムチャブリだよ、困ったなあと嘆きつつ引き受ける。そしてその先で、たくさんの個性的な人々と、美味しいご飯と出会ったりして、物語が動く。「大変だったけど良かった」そんな実感が『孤独のグルメ』にはあって、その面倒だけど楽しい仕事ぶりと、だからこそ余計に沁みる、その土地で出会う一期一会の美味しさという過程そのものが、本作が「飯テロドラマ」の元祖であり王者であり続ける理由なのではないだろうか。

 なぜなら、仕事を通して人と関わること、誰かと繋がることの厄介さと楽しさの中で生きつつ、一人で美味しいものを好きなタイミングで、好きな食べ方で食べることを通して得るつかの間の解放感という無上の喜びを知っている、私たちのためのドラマだから。そしてそれは、10年に及ぶ放送期間の中で、原作に忠実というよりは、松重豊と『孤独のグルメ』スタッフが作り上げ、さらにはまさに「独食の時代」となったコロナ禍以降を含め、時代の変化をも反映したドラマ版・井之頭五郎の姿なのだと思う。

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