『アンナチュラル』野木亜紀子脚本の巧さを解説 石原さとみ&井浦新の名演が生まれた背景

井浦新がイジられポジションで輝く脚本の妙

 逆にギラついているのが、井浦新演じる中堂。彼にも悲劇的な過去があり、その事件の真相追求が彼がUDIにいる理由で、ドラマの最後の戦いでもある。井浦がこれまで演じてきた役柄のように、あまり表情を変えず、暗くて気難しいキャラを演じ、「クソ」「バカ」を多用するなど言葉遣いと態度の悪さ、そして倫理観がぶっ壊れた無頼派気質。だが、仕事を頼めば文句を言いながらもしっかりとプロの仕事を見せていく。

 ここまではいつもの井浦なのだが、松重豊演じる所長が、中堂のツンケンな態度を実況して解説してみたり、中堂をパワハラで訴えている飯尾和樹(ずん)演じる臨床検査技師の坂本が、そのパワハラを盾にして茶々を入れ、それを「ぐぬぬ……」と仕事の為に耐えながらやり過ごしてくかわいらしさがあった。さらに感謝されるとちょっと嬉しそうだったりと、井浦をある意味イジられポジションにしていることで、一気に親近感が湧くキャラにさせているところが野木脚本のうまさだ。

 とはいえ、中堂を突き動かすものは大事な人を殺した犯人への殺意が原動力。ほぼミコトたちをバックアップする存在だが、たまに犯人を恨む彼の倫理なき暴走する感情を、ミコトはどう理性のある判断で抑えていくのかに注目だ。「Lemon」の歌詞は中堂の真相が見えてくるにつれ彼に宛てた歌詞のようにも思えてくるが、互いに不自然死に関する辛い過去を持つミコトと中堂が徐々に信頼し、チームワークが生まれていく過程が見どころだ。

六郎(窪田正孝)の葛藤と成長

 もう一つの見どころは六郎の成長だ。UDIのバイトだが、UDIの内部事情を知りたい『週刊ジャーナル』から送り込まれたスパイでもある。人畜無害なキャラで、頼んだ事はソツなくこなす。それゆえに情熱も特に感じられないというのが当初の六郎だが、ミコトの側で学んでいくことで法医学に興味とやり甲斐を感じていくのに反して、マスコミへの後ろめたさを感じていくという、彼なりの光と闇の間での葛藤と成長を見せる。前者の2人とはまた違った意味で表情に出さない演技で、正義に目覚め逞しくなっていく姿を表現していく。この繊細な窪田の演技の素晴らしさも必見だ。

 死者に徹底的に寄り添う丁寧な脚本とキャストの演技力、この2つが揃うとここまで魅力的な作品ができるのかと感じさせてくれる『アンナチュラル』。第1話から深く考えさせられる傑作となっているので、未見の方は逃さず観ていただきたい。

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■放送情報
『アンナチュラル』
12月30日(水)26:00〜30:00放送
2024年1月1日(金)25:30〜29:00放送
2024年1月2日(土)24:30〜28:00放送
出演:石原さとみ、井浦新、窪田正孝、市川実日子、池田鉄洋、竜星涼、小笠原海(超特急)、飯尾和樹(ずん)、北村有起哉、大倉孝二、薬師丸ひろ子(特別出演)、松重豊ほか
脚本:野木亜紀子
プロデューサー:新井順子(ドリマックス・テレビジョン)、植田博樹
演出:塚原あゆ子(ドリマックス・テレビジョン)
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
©︎TBS

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