2023年の年間ベスト企画

児玉美月の「2023年 年間ベスト映画TOP10」 「観る」だけには留まらない映画体験

 以上、今年を代表する揺るぎない3本に、ほかには#MeTooムーブメントに連なる作品として、リストにはフランソワ・オゾン監督による『私がやりました』とサラ・ポーリー監督による『ウーマン・トーキング 私たちの選択』を挙げたものの、もちろんハリウッドの有名プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタインの性暴行を告発した女性記者の回顧録を下地に映像化された『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』や映画プロデューサーを夢見てエンターテインメント企業に就職した若い女性の一日の労働を淡々と追う『アシスタント』もまた重要作として見逃せない。オゾン流のケレン味が利いた『私がやりました』は#MeTooの扱い方に賛否こそあるかもしれないが、性暴力における二次加害のメカニズムに焦点化した『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』と併せて、フランスのフェミニズム映画の豊かさを感じさせる。ここに挙げた映画はすべてアプローチも形式も異なり、一括りで#MeTooとはいえ多様な作品があったのがこの2023年だった。

『CLOSE/クロース』©Menuet / Diaphana Films / Topkapi Films / Versus Production 2022

 長編映画デビュー作『Girl/ガール』から注目しているルーカス・ドン監督の新作『CLOSE/クロース』は、13歳のレオとレミという少年同士を通して、親密な二者間の関係がつねに性的なまなざしに晒され、単純な恋愛の枠組みによって捉えられてしまう暴力性を炙り出す。『CLOSE/クロース』には、恋愛または性愛に限らないさまざまな親密性が模索される2020年代というまさにいまの時代のムードがあったといえるだろう。その意味では、同性である女性の恋人と行くはずだったペトログリフ(岩面彫刻)を見る旅に出るため寝台列車に乗り込む『コンパートメントNo.6』もまた、名指せない関係性を描いていた。すでに持っている言語では到底語り切れないような人と人の関係性が今後もますます描かれ、表現がつねに言語を超えてゆく映画を、これからも観ていきたい。

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