『いちばんすきな花』が描いた“みんな”の正体とは? 圧倒された脚本家・生方美久の構成力
同時に感じたのが、人間関係にまつわるあらゆる概念を分析し細かく分解していくことで何かを証明しようとする鮮やかな手捌きだ。おそらく生方がやりたかったことはドラマを用いた「問いかけ」だったのではないかと思う。
それは初めにドラマのテーマとして提示された「男女の友情は成立するのか?」だったり「2人というのは難しい」というゆくえのモノローグから始まる「人間関係における理想の“人数”は何人か?」といった問いであり、おそらく全体を通して問いかけたかったのは「あなたを苦しめる“みんな”とは誰なのか?」ということだったのではないかと思う。
それは第10話では、紅葉のイラストを批判するネット上の匿名の書き込みだったり、美鳥や希子の噂話をして遠くから悪意をぶつけてくるクラスメイトとして描かれたのが、最終話で美鳥のモノローグを通して語られる「みんなみたいに、みんなにならなくていい」「みんなに嫌われてる子なんていない」という台詞を聞いた時に、「みんな」とは概念にすぎず、孤独な一人一人の集合体でしかないということを、本作は証明しようとしたのだと納得した。
美鳥のモノローグに被さる型で描く登場人物の描写が挟まる様子は、第1話のゆくえのモノローグに被さる型で登場人物の困難が描かれる様子と対になっており、ここまではっきりと結論めいたことを言い切るのかと驚いた。
最後に藤井風が登場して主題歌の「花」を歌わせることで歌詞を聞かせる場面も含めて、完璧に語り切った最終話を観ていると、「もう少し余白があっても良かったのでは?」と思ったが、綺麗に畳んでまとめ上げてしまう律儀さもまた本作の魅力なのだろう。
連続ドラマ2作目で、ここまで作家性の強い作品を書ききった生方美久の脚本家としての力量には圧倒される。テレビドラマでこんな凄いことができるのかと毎週驚かされた作品だった。
■配信情報
木曜劇場『いちばんすきな花』
TVer、FODにて配信中
出演:多部未華子、松下洸平、神尾楓珠、今田美桜、齋藤飛鳥、一ノ瀬颯、白鳥玉季、黒川想矢、田辺桃子、泉澤祐希、臼田あさ美、仲野太賀、田中麗奈ほか
脚本:生方美久
プロデュース:村瀬健
演出:髙野舞
音楽:得田真裕
主題歌:藤井風「花」(HEHN RECORDS / UNIVERSAL SIGMA)
制作・著作:フジテレビ
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