『だが、情熱はある』は現代人への讃歌に “魂の念写”を成し遂げた髙橋海人&森本慎太郎
優れた映像作品は、携わるすべての人が同じ熱量を持って一処に向かい、表現を突き詰めた結果として生まれる。『だが、情熱はある』(日本テレビ系)はそうした作品と呼ぶに相応しく、2023年は『だが、情熱はある』が放送された年として、多くのドラマファンの心に刻まれたのではないだろうか。
オードリー・若林正恭と南海キャンディーズ・山里亮太によるそれぞれの著書を原案としてふたりの半生を描き、髙橋海人(King & Prince)が若林を、森本慎太郎(SixTONES)が山里を演じた本作。出演者、スタッフ全員の「情熱」が結集したこのドラマのBlu-ray&DVD-BOXが12月20日に発売された。
「これは、ふたりの物語。惨めでも無様でも、逃げ出したくても泣きたくても、青春をサバイブし、漫才師として成功を勝ち取っていくふたりの物語。しかし断っておくが、友情物語ではないしサクセスストーリーでもない。そして、ほとんどの人においてまったく参考にはならない」
水卜麻美アナウンサーによる抑制の効いたナレーションがそう謳うように、友情物語でもなく、サクセスストーリーでもなく、華やかな恋愛のシーンは存在せず、派手なアクションも対決も登場しない。自意識とプライドをこじらせたふたりの芸人が、モラトリアム期、芸能界での不遇時代を経て、「何者かになる」ことができた40代までの半生を描いている。
第1話は2021年、山里・若林のユニット活動の最終回となる「明日のたりないふたり」で幕を開ける。コロナ禍にネット配信で行われたこのイベントは、お笑いライブ史上最多となる5万5千人超に視聴された伝説のライブだ。そこから遡って、ふたりが初めて出会った日、そして互いの幼少期から、芸人を志すまでの過程が描かれる。
冒頭のナレーションにある「漫才師として成功を勝ち取っていく」ことと「サクセスストーリーではない」ことは、一見矛盾しているようにも思える。しかし、それがこのドラマなのだ。『M-1グランプリ』で南海キャンディーズは2004年に準優勝、オードリーは2008年に準優勝を経て、若林も山里も、今やゆるぎない人気を誇る売れっ子芸人となったが、これがゴールではないのだと、物語はくりかえし示している。ふたりともまだ道の途中。先輩芸人・タニショー(藤井隆)から繰り返し投げられる「今、幸せ?」という問いの答えと、「生まれてきた意味を掴み取るような」実感を得るために、若林と山里の旅路はこれからも続く。
ふたりのユニット「たりないふたり」と同じように、ドラマも「欠陥」が深い共感を呼んだ。いわゆる「破天荒ぶり」を良しとした昭和の芸人とは違う、平成世代の芸人だからこその、ふたりの苦悩が伝わる。ライバルである何千人という同世代の芸人たちと渡り合い、テレビの消費サイクルと戦い、肥大化した自意識と闘い、もがき続けてサバイブしたふたり。その「静かな業」が、観る者の胸に迫ってくる。
「真の幸福」とか「生きてる実感」とか、形のはっきりしないものを掴もうと、ふたりは悪戦苦闘する。その姿を見ている私たちも同じだ。だからこのドラマは、「サクセスストーリーではない」のだ。これは、先の見えない今の時代を生きる、すべての人に捧げるアンセム(讃歌)だ。