『たとえあなたを忘れても』切なくも美しい余白が漂うラストに 堀田真由と萩原利久の功績

 『たとえあなたを忘れても』(ABCテレビ・テレビ朝日系)最終話のタイトルは「いつまでも、あなたのそばに」。『たとえあなたを忘れても』に続く言葉にふさわしく、美璃(堀田真由)と空(萩原利久)の物語には、壮絶で美しいラストが待っていた。

 ようやく想いが通じ合った、美璃と空。「どこにも行かないで」と切なげに言う美璃に「行きたくない、俺だって」と空も言葉を返す。結婚という形でようやく結ばれた2人を沙菜(岡田結実)や保(風間俊介)も祝福する。「何度記憶をなくしても、空は空だから」「美璃といる時間を失いたくない。けどそう思えるのは、幸せなことやとわかったんや」と2人が互いを強く思い合う様子に、第8話のラストシーンの不穏さはない。

 一方で、美璃の母・ゆかり(加藤貴子)は結婚の報告に猛反対。記憶を失う可能性のある空に結婚の責任は果たせないと考えるゆかりは、「結婚っていうのはね、責任が伴うの」と美璃たちを厳しい言葉で詰め寄る。「私が働きに出ている間、あの子をひとりぼっちにさせるのが可哀想で申し訳なくて仕方なかった。だから、幸せな結婚をしてほしかったの」という後のゆかりの言葉から、彼女が美璃の結婚の話題に敏感なのは愛ゆえだとわかるのだが、その場は重苦しい空気に包まれる。

 ゆかりの言葉を受けた美璃は、「私ね、お母さんに認めてほしくて今まで精一杯頑張ってきた。だからピアノで挫折したとき辛かった」と過去を振り返る。これまで、どこか自分の気持ちを言葉にするのが苦手なように見えた美璃だが、彼女は空との出会いによって広い世界を知り、その中で自分にとっての幸福を見つけていた。しかし、美璃の想いを知ってもなおゆかりは納得がいかない。そんなゆかりに、空はコーヒーを淹れさせてほしいとお願いする。空は、今まで記憶を忘れてもコーヒーの淹れ方は覚えていたこと、そして美璃をまた好きになったことから「自分の身体を信じることにした」と強く言い放つ。

 ここに繋がるのが、後日の空の母・理佐子(檀れい)と美璃の会話だろう。2人の会話からは、空自身が記憶をなくしていても、空の淹れたコーヒーが理佐子の人生を前に進ませていたことがわかる。結婚報告を受けた理佐子は「美璃ちゃんが、空のそばにおってくれて本当に安心してるんよ」「あたしね、コーヒーマイスターの資格、取ろうと思ってるんよ。今バイトしてる喫茶店でも、『正社員にならないか?』って」と笑顔で話す理佐子。

 共に過ごした時間を忘れていても、その人が“その人として生きているだけ”で希望を与えられる人がいる。理佐子の言葉には、そんな本作のラストに相応しいメッセージが込められていた。

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