『ダンまち』の祭りはまだまだ続く 10年を経てなお衰えないシリーズの魅力とは?

 祭りの時間は終わらない。大森藤ノによるライトノベル『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』シリーズは、13カ月連続刊行という偉業を成し遂げた。さらに、アニメの第5期制作が発表になり、花畑にたたずむ後ろ姿の少女・シルが描かれたティザービジュアルも公開された。大いに沸き立ったあのエピソードが、いつものハイクオリティのアニメで描かれるのかといった期待を誘っている。刊行から10年。『ダンまち』シリーズがこれほどの支持を集め続ける理由とは?

 ダンジョンがある迷宮都市オラリオに来たばかりで、たいしたスキルも持たずにダンジョンに入っては、美少女と出会って仲良くなりたいと妄想していた少年ベル・クラネル。モンスターのミノタウロスに襲われ死にかけていたところを、美少女の剣士アイズ・ヴァレンシュタインに助けられる。「剣姫」と呼ばれる最強の美少女との出会いをきっかけに、ベルの戦いと成長のドラマが幕を開ける。

 これが、2013年に刊行された『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』(GA文庫)の冒頭に描かれたエピソードである。このボーイ・ミーツ・ガールが、2人の物語に収まらず、オラリオで暮らすすべての冒険者たちを巻き込み、ダンジョンのモンスターたちにも影響を与え、世界全体の行く末をも視野にいれた壮大なファンタジーになっていくとは、その時誰が予想できただろう。

 アイズを追いかけるベルを、ヘスティアが主神として見守りながらもモヤモヤとした感情を抱くラブコメファンタジーになるのでは、そんな雰囲気は最初だけで、想像を超えて話しのスケールが大きくなっていった。ベルのダンジョンでの出会いはどこまでも広がって、かつ深まって大勢を巻き込んでの英雄譚へと膨らんでいった。

 本編の『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』シリーズを軸にしつつ、『外伝 ソード・オラトリア』シリーズがアイズの冒険を描くストーリーとして併走。そして、シルと同じ店で働くエルフのリューや女神フレイヤが主人公の『ファミリアクロニクル』シリーズや、作中でベルが読みふけった英雄譚『アルゴノゥト』などが小説として刊行され、ベルと仲間たちのキャラクターに奥行きが生まれてくる。

 ベルはダンジョンに美少女との出会いを求めたがる普通の少年などではなく、とてつもない速度で成長していく不思議があり、ヘスティアだけではない神々から関心を向けられる魅力や強い意思があり、ヘスティアと2人だけで始めた「ヘスティア・ファミリア」の元には自然と仲間が集まってくるようになる。

 原作小説を読んだ人と、TVアニメや『劇場版 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか ―オリオンの矢―』を観た人は、そこでのベルの活躍ぶりに触れてファンになり、成長を見守りたい、あるいは一緒に成長していきたいと思う。そうした気持ちが、10年もの長い期間をシリーズにファンを引き留め続け、また新たなファンを生み続けている背景にある。

 加えてコミカライズがあり、原作者による監修が行き届いたアプリゲーム『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか ~メモリア・フレーゼ~』の登場などもあって、様々な入り口から『ダンまち』の世界へとファンを引き込んでいることも、衰えを見せない人気の理由にありそうだ。

 そんな、成長していくベルのストーリーに絡まるようにして、シルであったりリューであったりといった一見本筋には影響しないようなキャラクターが、シリーズになくてはならない存在になっていく。リューは過去に経験した悲痛な出来事が明らかとなり、憎悪だけを生きる目的にしていたようなところをベルとの出会いが変えていった。小説の第18巻における、旅を終え、答えを見つけた彼女が再びベルの前に現れるシーンは、そこに至るまでのリューの物語だけを追って、シリーズを読み返したいと思わせた。

 シルもまた、新米冒険者にも優しいウエイトレスから大きく印象を変えて、数奇とも言えるその運命を浮かび上がらせる。原作のまま進むなら、アニメ『ダンまちⅤ』も壮大でドラマティックな物語になりそうだが、そこはTVシリーズを妥協のないクオリティで作り続けてきたスタッフが、思いの丈をぶつけて表現してくれるだろう。

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