『どうする家康』松本潤を支えてきた者たちとの涙の別れ “徳川家臣団”の死を振り返る
関ヶ原の戦いが、始まろうとしている。
家康は越後の上杉勢を攻める際の伏見城の護りを、鳥居元忠(音尾琢真)に託す。石田三成(中村七之助)が挙兵した場合、真っ先に攻め込まれるのは、この手薄になった伏見城だ。少ない兵で石田勢を食い止め、奮戦し、最後には九割九分討ち死にする。そんな役目を家康は、幼なじみである元忠に託した。
家康は、夏目広次の時には、家臣が自分のために死ぬことをあんなに拒んだ。だが時が経ち、家康は、家臣に自分のために死ぬことを命ずるようになる。それは、“将”としては成長と言えるのだろう。だが……。
思い出すのは、石川数正の出奔前の言葉である。
「あの弱く優しかった殿が、かほどに強く、勇ましくなられるとは。さぞやお苦しいことでございましょう」
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家康の成長に伴う苦しみを、理解してくれる家臣も、次々といなくなっていく。
いよいよ関ヶ原の戦いが始まった。井伊直政(板垣李光人)が家康に語りかける。
「殿、オイラを家臣にして良かったでしょ」
直政の一人称が、「オイラ」に戻っている。かつて家康の命を狙った、少年の頃のように。これは一見「死亡フラグ」のようだが、「フラグを立てておいて死なない」という、酒井忠次の例もある。さすがに家臣団最年少の直政が、死ぬことはないだろう。
そう。死ぬ必要はなかったのだ。戦いには勝ったのだから。
直政は、正面突破で逃げようとした島津勢を、(ほっとけばいいのに)迎え撃つ。そして、銃撃を受ける。
家康自らの手当を受けながら、直政は涙を流す。
「ついに、ついに、やりましたな! 天下を取りましたな! これからが楽しみだ!」
だが直政は、「これから」を見ることはできなかった。
直政が撃たれたのは腕である。だが医療が未発達なこの時代、「銃弾が体内に入る」ということ自体が、致命傷なのである。
直政は関ヶ原の戦いから1年半後、敗血症で死ぬ。
やがて、あの若くて血の気の多かった本多平八郎忠勝と榊原小平太康政(杉野遥亮)にも、死期が訪れる。
「主君を守って死ぬこと」が夢であったはずの平八郎だったが、結局かすり傷一つ負うことなく(自称)、老いさらばえてしまった。戦死できた井伊直政を、羨ましくさえ思う。
少年の頃、「押しかけ弟子」のような形で徳川勢に潜り込んだ小平太は、同い年の平八郎に武術を教わったのだと思われる。
槍を取ったふたりは、あの頃のように立ち会う。恐らく、生涯最後の立ち合いを行う。
「やるではないか、大樹寺の小僧」
「お前もな、礼儀知らずのあほたわけ」
少年漫画のようなベタなやり取りが、このふたりには似合う。最良の友を得て、最愛の主君のために戦い尽くせたふたりは、幸せな人生だったのだと思う。
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12月10日放送回の次回予告では、若き日の家康が、同じく若き日の家臣団に囲まれて、泣き笑いしている画が流れた。前もって言っておくが、筆者は脱水症状になるぐらい泣くと思う。
号泣する準備は、すでにできている。
■放送情報
『どうする家康』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:松本潤
脚本:古沢良太
制作統括:磯智明
演出統括:加藤拓
音楽:稲本響
写真提供=NHK