『下剋上球児』はなぜ“失敗”した大人たちを描いたのか? 無免許教師にした設定の妙味

「失敗した人間の背中、いつまでも蹴り続けて楽しいですか?」
「あんたらは、いっぺんも失敗したことないていうんですか? 私なんかもうずっと失敗。失敗して失敗して失敗重ねて、今があるんとちゃいますか?」

 越山高校の野球部員は、主に受験に失敗した子どもたちだ(実際、モデルになった白山高校の主力選手たちがそうだったという)。それ以外にもさまざまな失敗を重ね、まわりからも蔑まれて、どんどんやる気を失っていった。

 そして、子どもたちだけでなく、大人たちも失敗だらけだ。「野球バカ」の山住も名門校を失意のうちに辞めていた。南雲に怒りをぶつける犬塚だって失敗だらけの人生である。横田は野球のルールをろくに知らないまま野球部の監督をして、廃部寸前にしてしまった。丹羽は失敗したことがないような顔をしているが、実際はどうなのかはわからない。第5話の最後では、久々に再会した野球部員たちの笑顔を見て南雲が涙する場面があった。大人が子どもを救うだけでなく、子どもが大人を救うことだってあるのだ。

 今の世の中はどうしようもない。だからドラマの中ぐらい、清廉潔白で有能で性格も良い人たちだけを観ていたいという視聴者の気分もわかる。だけど、世の中には失敗なくキャリアを積み上げてきた人もいるだろうが、真面目だけど何らかの大きな失敗を犯してしまった人のほうが多いんじゃないだろうか。その失敗から立ち直るために、また真面目にコツコツと何かを積み上げようとしている人たちがたくさんいる。

 失敗した大人たちが失敗した子どもたちと一緒にコツコツ努力して名誉を挽回する。何らかの成功体験を得て、今後の人生に活かしていく。それが『下剋上球児』というドラマの肝なのだと思う。いろいろなものを失ってきた南雲と野球部員たちが、最終回で何を得るのかを見届けたい。

参照

https://www.bengo4.com/c_5/n_4514/

■放送情報
日曜劇場『下剋上球児』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:鈴木亮平、黒木華、井川遥、生瀬勝久、明日海りお、山下美月、きょん(コットン)、中沢元紀、兵頭功海、伊藤あさひ、小林虎之介、橘優輝、生田俊平、菅生新樹、財津優太郎、鈴木敦也、福松凜、奥野壮、絃瀬聡一、鳥谷敬、伊達さゆり、松平健、大倉孝二、小泉孝太郎、小日向文世
原案:『下剋上球児』(カンゼン/菊地高弘著)
脚本:奥寺佐渡子
プロデュース:新井順子
演出:塚原あゆ子、山室大輔、濱野大輝
編成:佐藤美紀、黎景怡、広瀬泰斗
製作:TBSスパークル
©TBSスパークル/TBS(撮影:ENO)
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/gekokujo_kyuji_tbs/
公式X(旧Twitter):@gekokujo_kyuji
公式Instagram:@gekokujo_kyuji
公式TikTok:@gekokujyo_tbs

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