『プレイ・プリ』は“叶わなかった夢”を供養する 傷つくことを恐れて進めない人のために
好きなことがある、やりたいことがある、大好きな推しがいる、自分をサポートしてくれる環境がある、自分なりに精いっぱい努力もしてきた。なのに、この息苦しさはなんだろう。
男性アイドルグループの超人気メンバーが素顔を隠す女子大生のファンに? 全く違う世界にいる2人が“本当の自分”と向き合おうとする、若者たちの爽やかな青春ストーリー『プレイ・プリ』。本作は、『愛の不時着』と『梨泰院クラス』のヒットメーカープロデューサーが生み出したHulu初のオリジナル韓国ドラマで、全8話が配信中だ。2F(イエフ)によるウェブトゥーン 『プレイリスト』が原作で、ドラマでは旬の若手俳優キム・ヒャンギとシン・ヒョンスンが主演を務める。
物語の主人公は、大学に通いながらバイトに明け暮れる平凡な女子大生のハン・ハンジュ(キム・ヒャンギ)。現実主義者で安定した道に進むため、大企業への就職を目指して就活中だ。一方で登録数10万人を誇る人気音楽インフルエンサー、覆面シンガー“プリ”という、もう1つの顔があった。歌手が夢だと口にできない事情があるハンジュは、素顔を隠してカバー曲をSNSに投稿していたのだ。イ・ドグク(シン・ヒョンスン)は人気男性アイドルグループでビジュアル担当の“レビ”として活動中。以前からプリのファンだったドグクは、ある計画を思いつきプリの正体を突き止めるため、大学に復学。同じ大学に通うハンジュは、ドグクとの出会いによって鬱屈としていた毎日に変化が訪れる。
夢をベースに繰り広げられていくストーリーに思わず共感せずにはいられなくなるのは、誰でも一度は夢を抱いたことがあるからだ。しかも実現した夢よりも、無理だと諦めた夢、描くだけで終わった夢、いろんな環境のせいで叶えられなかった夢の方がきっと多い。不安定な世の中で安定を求めるのは悪いことではないし、むしろ自然の流れだ。不満はあってもそこそこ満足していれば、気付いたら結果オーライになっている。しかし厄介なのが叶わなかった夢というのは、この先もずっと幾度となくふと思い出してしまうこと。この切なさを経験した人は少なくないはず。
ハンジュも自分を押し殺していた一人。母の音楽活動によって家庭が壊れて以来、父の前で歌手になりたいとは口にはできなかった。だから家族と自分を納得させるためにも大企業への就職の道を選んだのだ。そして事務所の大人たちを困らせる問題児のアーティスト・レビことドグク。真っ直ぐで一度決めたことは周りを一切気にせずやり通す性格で、周囲からは“わがまま”とレッテルを貼られてしまう。事務所との契約更新を控える最中で本当に自分がやりたい音楽は何か、進みたい道は何かを模索し思い悩む。
一般人と芸能人、現実主義と世間知らずのゴーイングマイウェイスタイルと真逆の世界にいる2人を見て思うのは、“みんなあまり変わらない”ということ。これはハンジュが言ったセリフでもある。同じように苦しんで、もがいて乗り越えようと必死なのだ。ハンジュとドグクは“交換日記”を通じて、楽しかった、悲しかった、辛いと思ったなど自分たちの感情などをありのままに綴り、少しずつ思いを共有することで本当の気持ちを見つけていく。
私たちはあまりにも一人で背負いすぎてしまうがために、自分の世界にこもりがちだ。誰かと共有して傷つくならあえて近づこうとはしないし、失敗すると分かっている道をわざわざ歩もうとはしないだろう。もしかしたら名前も顔も伏せたまま個人が発信できる時代の代償に、ハンジュも苦しめられたのかもしれない。
困難な道をあえて選んだ先に何があったのかを少しだけ教えてくれたのは人生の先輩だ。本作では、20代の迷えるハンジュたちに語りかける大人たちのメッセージにも励まされる。医大を中退したテレビ番組のプロデューサーは、自分がどんな仕事をすれば幸せかと向き合って、稼げなくても楽しそうな仕事を選んだ人。ハンジュのバイト先の店長は、周りが会社に就職する中で音楽の道を選んで「後悔はしたけど楽しかった」と語る。成功するかも分からないし、いばらの道を選んだことの責任は誰のせいにもできない。ただ彼女たちの表情は人を引きつけ、自分の選択を受け入れて楽しんでいた。