『ズートピア』は新たな価値観を掲げるディズニー映画 『マイ・エレメント』との共通点も
世界をより良いものにするため、すべきことは何か? そんな問いを投げかけたディズニー映画がある。動物たちを主人公としながら、人間社会を彷彿とさせる巧みな脚本とエンタメとしての痛快さを両立させ、第89回アカデミー賞長編アニメーション賞を受賞した映画『ズートピア』だ。
本作は、2016年に日本公開されると同時に、ディズニーファンのみならず子どもから大人までをそのストーリーと愛くるしいキャラクターで魅了し、2000年代において新たな価値観を掲げるディズニー映画の代表作的立ち位置となった。昨今のディズニー作品がより現代に即した社会性を交え、観客に今日的なメッセージを投げかける先駆けとなった作品といっても過言ではないだろう。
直近でいえば、2023年8月に日本公開されたディズニー&ピクサー映画『マイ・エレメント』にも、『ズートピア』で描かれた社会性に似通った部分が多く見受けられたように感じる。そこで本稿では、両作品に共通した“擬人化により人間の構造社会を表層化し描いている”点、そしてそれぞれに描出された“異なる種の共存をデザインに組み込んだ街の様相”について言及したいと思う。
まずは両者のキャラクタークリエイティブについて触れたい。『ズートピア』は動物たちが人間でいうところのニューヨークのように(「人種のサラダボウル」と呼称されているかの街に相応しく)多様な種が共存し暮らす街、ズートピアを舞台にしている。冒頭、ウサギである主人公のジュディの幼少期から始まり、「肉食動物は草食動物を襲い食べる」という弱肉強食の理を劇で演じ、しかし今はズートピアならその理に倣わず、誰しもが夢を持って暮らすことができると説く。しかしそんな理想郷であるズートピアでも、肉食動物が草食動物よりマジョリティで権力を持つというパワーバランスは変わらず存在しており、夢に見た憧れの都会、ズートピアで新米警察官となったジュディはとある事件が起きて顕在化する“無意識な差別”に真っ向から対峙することとなる。
そこで比較したいのが『マイ・エレメント』だ。『ズートピア』で描かれているような人間社会にも見られる関係が、ここでも描かれている。主人公のエンバーは作中に登場するエレメント(物質=キャラクター)の「火」にあたる。作中で彼女が出会うウェイドという青年は「水」のエレメントだが、彼らの暮らすエレメント・シティで最初に移民としてやってきたのがこの「水」であり、エレメントの中で最後に移住してきた「火」であるエンバーの住むファイア・タウンは「水」のエレメントたちが暮らす地区に比べると狭小なコミュニティとして描かれている。
『ズートピア』における「肉食動物>草食動物」の均衡は、『マイ・エレメント』における「水>火」に通じる部分がある。前者は社会派ドラマ、後者はラブロマンスを軸にしながらも、主人公が自分とは異なる種に出会い、相手を知り、稀有な関係性を築くバディものとしての魅力がある。
こういった共通点から、ディズニーないしピクサーは人間が構成するピラミッドを呈した社会構造をあえて擬人化という一枚噛ませた表現方法で、観客に考察を促して映画を深みを持たせていることが分かる。