人類の歴史を暗示? 『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』が描く“怪獣の脅威”

 だが物語は、これだけではない。この“2015年パート”といえるエピソードと同時に、第二次大戦終結以降に、怪獣を長年にわたって監視し、その生態や脅威の大きさを調査していく秘密組織「モナーク」が生まれることになるきっかけと、発足後のエピソードが並行して映し出されていく。この過去パートは、日本人の科学者ミウラ・ケイコ博士(山本真理)、若き日のリー・ショウ(ワイアット・ラッセル)、ウィリアム・ランダ(アンダース・ホルム)という、モナークの最初のメンバーとなる3人の出会いが、まず描かれることとなる。

 この時代の若いリー・ショウを演じるワイアット・ラッセルは、カート・ラッセルの実の息子でもある。同一人物を親子で演じるという趣向だ。ちなみに、2015年時点でリー・ショウは90歳以上になってしまうということだが、カート・ラッセル演じるショウに「なんというか……若く見える遺伝子なのかも」とセリフで言わせるだけで、物語設定と年齢が合わないという脚本上の疑問を乗りきろうとするという荒技に出ていて、笑わせてくれる。

 またウィリアム・ランダは、本シリーズの冒頭や『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年)でジョン・グッドマンが演じていたキャラクターと同一人物。さらに彼とミウラ・ケイコ博士は、どうやら2015年のケイトらと深い関係があるようだ。2つの時代を繋ぐ彼らの関係は、エピソードが進んでいくなかでより明らかになっていくことだろう。

 さて、気になるのは、本作がいくつものエピソードで何を描こうとしているのかだ。これまででとくに印象深い描写は、3話で描かれたビキニ環礁における、アメリカ軍によるゴジラ撃滅作戦である。このモンスター・ヴァースの第1作『GODZILLA ゴジラ』でも、この場面については極秘事項として紹介されていたが、なんとゴジラが秘密裏に攻撃されていたことが判明するのである。だが、ゴジラがその後「G-DAY」でパワーアップして登場していることから分かるように、結局この作戦は後々裏目に出ることになったということだろう。

 そもそも『GODZILLA ゴジラ』において、ビキニ環礁でのアメリカ軍の核実験という、現実の出来事と重なる要素を扱ったのは、日本の原爆被害にも関心のあったギャレス・エドワーズ監督が、ビキニ環礁での核実験が引き起こした「第五福竜丸事件」が日本の第1作『ゴジラ』(1954年)の撮られる契機となったことを意識していたからだろう。

 興味深いのは、その要素を拾ってモナークの活動を戦後から描いていくというストーリーをわざわざ用意して、本ドラマシリーズは、『GODZILLA ゴジラ』における過去の核実験と「G-DAY」、さらには『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年)、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019年)などの間にあるミッシングリンクを補完しようという意図を感じるところだ。つまりドラマの役割は、怪獣が活躍するハイライトシーンばかりで構成された映画シリーズ全体に奥行きを作り出していくというものなのだろう。

 4話では、ケンタロウが以前アートの個展をひらき、そこでメイと知り合った経緯すら描かれる。映画シリーズの方ならまずカットされるエピソードだと思われるが、このミクロな視点で人間を掘り下げていることで、本シリーズがあくまで“人間側の物語”にフォーカスしていることに気づかされるのである。とにかく劇場で怪獣たちの豪快なバトルだけ楽しめればいいという観客は映画だけを観ればいいし、物語世界を詳細に味わい尽くしたければ、ドラマシリーズの方も楽しめばいいということだ。

 とはいえ本シリーズは、単に設定を深めて、世界観をマニアックに楽しませるだけのために、日本にフォーカスしたり、核実験を要素にとり入れたのではないという気もする。ビキニ環礁での実験という現実の歴史が、モンスター・ヴァースの歴史としてアレンジしているように、それ以後の現実の歴史もまた改変されて提出されていくという予測ができるからである。

 ご存知の通り、この後の時代には、アメリカとソビエト連邦が睨み合う「冷戦」時代へ突入していく。度重なる核実験によって、核兵器が軍事的に強大な力を持つことが証明され、その事実をもとに、アメリカとソ連は、狂ったように核開発競争をおこなったのだ。両国とも核兵器保有数は6000に迫り、作戦配備核弾頭はそれぞれ1700ほどとなるまでに至るのである。ひとたび核ミサイルがどちらかの国に発射されてしまえば、わずかの時間で地獄のような事態になることは容易に想像がつく。(※)

 核の脅威は、平和利用であるはずの原子力発電技術にも及ぶ。怪獣「ムートー」がそれを象徴していたように、深刻な事故に見舞われると、いまの人類の手に負えないほど、遠い未来にまで被害が出てしまうことが、これまでの実際の事故や研究で分かっている。まさに核技術は、それを生み出した人類すらを死滅させる、人知を超えた“圧倒的な力”そのものなのである。本シリーズが描く“怪獣の脅威”とは、このような人類のおそろしい歴史を暗示したものかもしれない。

 『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』で描かれた、人類にとって絶望といえる、怪獣が人間の上に君臨する時代の到来……われわれ人間は、現実にそんな悲観的な未来がくるかもしれない状況を前にして、果たして何ができるのか。モナークの物語は、この絶望の予感に何らかの希望を投げかけてくれるだろうか。人類を救うべく奮闘することになるだろうモナークの、今後の活躍に期待したいところだ。

 核兵器や核汚染などの脅威という要素については、現実に被害者が存在し、それに対する歴史認識が各人異なるため、センシティブな領域となる。日本だから描けること、描けないことがあるだろうし、アメリカだから描けること、描けないこともあるだろう。歴史的に“核”を重要な要素としてきた「ゴジラ」を通して、今後も二つの国で補い合う表現を追求していってほしいものである。

参照

※ https://www.recna.nagasaki-u.ac.jp/recna/nuclear1/nuclear_list_202306

■配信情報
『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』
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画像・映像提供:Apple TV+

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