『フェルマーの料理』自分を解放していく“岳”高橋文哉 “海”志尊淳の秘密も明らかに?

『フェルマーの料理』第7話は岳の宿敵が登場

 若き料理界のカリスマで二つ星レストラン「K」のオーナーシェフ・朝倉海(志尊淳)からその才能を認められた天才数学少年・北田岳(高橋文哉)が、水を得た魚のようにどんどん自分を解放していく『フェルマーの料理』(TBS系)。

 「海さんみたいになりたい」と純真無垢な眼で真っ直ぐと答える岳の面影が、毎話冒頭に挿入される2024年のモノトーンの世界に生きる彼には一切見られない。そこには不吉な予感が終始付き纏い、そのギャップがいまだに信じられない。

 
 ただただ数学の難問を解くことに純粋に夢中になっていた幼少期を経て、数学オリンピックを目指すことになった途端そこに勝敗が持ち込まれると、大好きだった数学が全く楽しくなくなってしまった過去を持つ岳は、異様なまでに競争を避けようとする。「ライバルを蹴散らす」だとか「戦う」だとかはもう懲り懲りのようだ。

 争わず競わず、みんなで高みを目指したい。海と料理の歴史を変えたいという夢に嘘はないが、なぜそれが「みんなで一緒に」ではだめなのかわからない。レストラン「K」内でナンバー2の座を不動のものにしなければならないという事実を突きつけられ愕然とする岳。しかし、パーティ料理の最適解を見つけるという難問を前に、怖さよりも楽しさの方が上回る彼の無邪気さが眩しい。

 海がどんどん孤高を極めていくように見えるのは、同じ温度感で、同じ視座で共に戦ってくれる相手が周囲にいないからなのだろう。幼い頃から憧れ背中を追い続けた伝説のシェフ・渋谷(仲村トオル)は急に一線を退き、超えるべき目標を失った。ライバルと圧倒的な差を見せつけられメニューを創造することを放棄してしまったスー・シェフの布袋(細田善彦)は守りに入ってしまっている。

 決して驕ることなくいつまでも“攻め”の姿勢をとり続けることは相当難しいことだろう。ナンバー1になってしまった瞬間、追いかける背中はなくなり、次の新たなるステージもそこに登るためのルートも自分で見つける他なくなるのだ。それこそ岳がワクワクを抑えきれない“正解がない状態”と言えるだろうが、そこにずっと身を置き続けることはどれだけの精神力を要することだろう。誰ともこの苦悩は分かち合えっこないのだ。どんどん戦うことを辞めていってしまう周囲に静かに絶望している海は、岳こそが自分を脅かし超えていくような存在になることを願っているのかもしれない。

 「どうして僕に一人を求めるんですか? どこかに行っちゃうんですか?」と海に対して切実に訴える岳に、「勘のいい少年だ」とすかさず呟いた渋谷の緊張感走るやりとりが思い起こされる。海はいずれ自分がいなくなる未来に備え、岳をはじめ「K」に集まる少数精鋭のシェフらに何かを託そうと焦っているのだろうか。時に自分が悪役を引き受けてでも相手の才能を引き出し伸ばし切ろうとする海の、時折覗かせる寂しそうな表情が気に掛かる。

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