『いちばんすきな花』『セクシー田中さん』など、“いま”を見つめる秋ドラマ4選

 10月期ドラマもいよいよ大詰めである。しかし今期ほどバラエティに富んだ良作揃いもそうそうないのではないだろうか。早くも最終回を迎えた『たそがれ優作』(BSテレ東)、間もなく最終回の『パリピ孔明』(フジテレビ系)も秀逸だったが、現代版「渡鬼」的な『コタツがない家』(日本テレビ系)や、キュートでお洒落な『時をかけるな、恋人たち』(カンテレ・フジテレビ系)、絶品の一言『きのう何食べた? Season2』など、枚挙に暇がない。

 とはいいつつ、全てを解説したところで終わりが見えないので、今回はいまを生きる私たちの心を、それぞれ全く異なる角度から、実に丁寧に描き出そうとしている4作品、『いちばんすきな花』(フジテレビ系)、『ゆりあ先生の赤い糸』(テレビ朝日系)、『あたりのキッチン!』(東海テレビ・フジテレビ系)、『セクシー田中さん』(日本テレビ系)を横断して「いま」を見つめてみたい。

『いちばんすきな花』

『いちばんすきな花』©︎フジテレビ

 生方美久脚本『いちばんすきな花』は、人によって感じ方が全く異なることを楽しむドラマだと思う。第7話で、同じ人物「志木美鳥」に対し、4人の印象が全く異なり、違う人物のように見えたことと同じように。どこに、あるいは誰に心を寄せるかで全く見え方が異なってしまう。例えば、誰かにとっては、その言葉1つ1つが、かつて、もしくは今の自分の心の中にあったものだという実感とともに観ずにはいられない、まるで自分の分身のような、同じ性質の孤独を抱えた人々の、ほっこり優しい、心地よいドラマに見える。

 でも、違う誰かにとっては、彼ら彼女たちに積年の思いをぶつけられ、心の傷を見せないように、美しくそっと退散していくオクサマこと純恋(臼田あさ美)や、夜々(今田美桜)の母・沙夜子(斉藤由貴)の気持ちを思わず考えてしまう、しんどいドラマかもしれない。「いま」を必死に生きる人々が抱えている、言葉にならない思いを巧みに言語化しようと試みる生方美久脚本の真摯さ。一方でそれは、主人公たちを取り巻く社会だけでなく、主人公たち自身の、優しさと無自覚な残酷さをも炙り出したりもしていて、そこが興味深いと思う。

『ゆりあ先生の赤い糸』

『ゆりあ先生の赤い糸』©テレビ朝日

 『いちばんすきな花』と同じ木曜日放送である『ゆりあ先生の赤い糸』は、一見「善き人たちのドラマ」であるところの『いちばんすきな花』と対極にある、全員腹黒で面倒な人たちだらけのドラマに見える。だが、回を重ねるにつれて感じるのは、実は、ゆりあ(菅野美穂)を含め、全ての登場人物たちの弱い部分、正しくない部分、言って見れば「醜い部分」を許容する、とても大きくて優しいドラマなのではないかということ。

 脚本は、『モコミ~彼女ちょっとヘンだけど~』(テレビ朝日系)、『6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の憂鬱』(テレビ朝日系)の橋部敦子。常に、少し不器用な人々の心を温かくファンタジックに包み込んできた脚本家である。倒れた夫・吾良(田中哲司)を巡って集まった愛人2人とその娘たちと、時に罵り合い、全身全霊でぶつかり合いながらも、助け合い、共に生きる方法を模索するゆりあ。さらにはゆりあの新しい恋という形で新たな不倫が描かれるという、新しい家族の形と言うにはいささか荒唐無稽な作品ではあるが、不思議と心地よく、この、誰もが「正しさ」を追求しすぎて息が詰まる現代社会に、おおらかで優しい風を吹き込んでくれる。

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