Netflix『BLUE EYE SAMURAI』の恐るべき完成度 溢れる日本の時代劇への愛とリスペクト

 また、個人的に目を見張ったのが本作における殺陣、すなわちアクションシーンだ。あらゆる点で完成度の高い『BLUE EYE SAMURAI/ブルーアイ・サムライ』だが、その中でもアクションシーンのクオリティは特に高い。テクニカルな振り付けに鮮やかなカメラワークにリズミカルな編集。アクション設計において「力の流れを理解したカメラワークと編集」というものがあるが本作はまさにそれで、ミズのテクニカルでキレ味の鋭い動きを効果的に捉えている。アクション監督の権限が大きく、世界屈指のアクションを撮る香港映画にも劣らない演出力の高さを感じる。

 本作のアクションを手掛けるのは『デッドプール2』(2018年)と『タイラー・レイク -命の奪還-2』(2023年)のファイト・コーディネーターを務めたサニー・サン。このフィルモグラフィからわかる通り、『ジョン・ウィック』シリーズのチャド・スタエルスキ監督と『ブレット・トレイン』のデヴィッド・リーチ監督が興したハリウッド最強のアクションチーム「87eleven Action Design」のメンバーだ。本作は彼の研ぎ澄まされたアクションに対する技術とセンスが遺憾なく発揮された結果であろう。

 それから総監督・プロデューサーを務めたジェーン・ウーの貢献も忘れてはいけない。武術家でもある彼女は、本作のアクションシーンを作るにあたってアニメーターたちを青空の下へと連れ出し、自ら格闘技を叩きこんだそうだ。先程「力の流れを理解したカメラワークと編集」と表現したが、それはサニー・サンのビデオコンテを正確にアニメ化しているだけでなく、ジェーン・ウーが格闘技……すなわち力を振るう感覚をアニメーターたちに身をもって掴ませたからだと思う。

 ハリウッドで今日本の時代劇が新たな潮目を迎えている。ディズニープラスではつい先日、真田広之がプロデュース・主演を務めたハリウッド製本格時代劇『SHOGUN 将軍』の予告編が発表されたばかりだ。また、Sucker Punch Productionsが開発したオープンワールドゲーム『Ghost of Tsushima』の実写化企画が『ジョン・ウィック』シリーズのチャド・スタエルスキ監督で進行している。そんな2作に先駆けて公開された『BLUE EYE SAMURAI/ブルーアイ・サムライ』が日本の世俗、文化を研究した素晴らしい傑作だったので(個人的には全く様子のおかしな日本も大歓迎だが)これからが非常に楽しみになる。

■配信情報
『BLUE EYE SAMURAI/ブルーアイ・サムライ』
Netflixにて配信中
脚本:マイケル・グリーン、アンバー・ノイズミ
監督:ジェーン・ウー
出演:マヤ・アースキン、ジョージ・タケイ、マシ・オカ、ランドール・パーク、ケイリー=ヒロユキ・タガワ、ブレンダ・ソング、ダレン・バーネット、ケネス・ブラナー

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