その頃、美璃は病院でのピアノコンサートに向けて準備を進めていた。しかし、難しいフレーズに指がもつれる度に、音大時代のトラウマが頭をよぎり、美璃は不安に駆られてしまう。コンサートの情報を聞きつけて連絡をくれたまりあ（森香澄）や、東京から聴きに来るというゆかり（加藤貴子）に対しても、「来なくていいよ。新幹線代も馬鹿にならないし」と冷たくあしらう美璃。プレッシャーに押しつぶされそうになった彼女は、ついにはコンサートを中止することまで考え始める。そんな美璃に対し、「美璃が弾きたい曲を弾けばいいんじゃない？」と優しく励まし、勇気を与えたのが空だ。

　ここで少し思い返してみてほしいのが、第1話「役に立たない、すてきなもの」の美璃が空に自らの生い立ちについて語っているシーンだ。その時にも、空は美璃に「好きな時に、好きなピアノを弾けばいいんじゃない？」と似たような励ましの言葉をかけている。今回空が言った「美璃は、今までピアノに使った時間、全部無駄だと思っているの？」というセリフは、まさに“役に立たないもの”に心を通わせた、あの時の2人の感情と重なるものがあるかもしれない。そう考えると、前回のエピソードでようやく過去を乗り越えた空が、第6話で「弾いてみて。あの曲の続きを」と美璃に“続き”を促すのは、非常に粋な構成だと言えるだろう。

　美璃は、空に促され、2人が初めて廃墟を訪れた際に即興で演奏した曲の続きを弾き始める。その音色に誘われるように現れたのは、音信が途絶えていた茜。空は茜に対し、「俺は自分の父親を死なせてしまったんだ」と、取り戻した記憶を語り出す。多くの人に支えられてきたことに気づいた空の「過去を知ることを怖がらなくていいよ」という言葉は、まさに彼にしか言えない、意味深いものだった。

　そして、いよいよコンサート当日。美璃は最初の挨拶で、自分がピアニストの夢を諦めた経緯を話し出す。「戦って負けた自分、弱い自分も含めて、その集大成が今の私のピアノなんだ」と弱さを受け入れた美璃は、コンサートを成功させる。弱い自分がいたからこそ見ることのできた景色、そして出会えた人がいる。そんなメッセージを感じさせる力強い挨拶には、美璃自身の成長も感じられたのではないだろうか。

　第6話では、一見、全てが順調に終わったように見える。茜と保の関係が元に戻り、コンサートも滞りなく幕を閉じた。しかし、このドラマが今までも切ない展開を繰り返してきたことを、我々は忘れてはならない。簡単には、ハッピーエンドに辿り着けない。それが、今までの『たとえあなたを忘れても』だった。

　空が最後に放った「またいつか記憶をなくすかもしれないということですか？」という言葉は、ただのセリフではなく、今後の物語に重大な伏線を感じさせるものだった。一段落したかのように見える物語の表面下には、まだ語られていない“これから”のストーリーが潜んでいる。

■放送情報
『たとえあなたを忘れても』
ABCテレビ・テレビ朝日系にて、毎週日曜22:00〜放送
TELASA、U-NEXTにて、見放題配信
TVerにて、放送終了後見逃し配信
出演：堀田真由、萩原利久、風間俊介、岡田結実、畑芽育、松井玲奈、森香澄、丸山智己、須藤理彩、加藤貴子、檀れい
脚本：浅野妙子
プロデューサー：清水一幸、辻知奈美、髙石明彦（The icon）、高橋香奈実（The icon）
演出：大谷健太郎、髙石明彦
音楽：平野真奈、福廣秀一朗
主題歌：由薫「Crystals」（Polydor Records）
制作協力：The icon
制作著作：ABCテレビ
©️ABCテレビ
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