『マーベルズ』北米興収、MCU史上ワーストの下落率 首位は『ハンガー・ゲーム0』に

 11月17日~19日の北米映画興行は、11月23日の感謝祭(サンクスギビング)を控えて新作映画が混戦模様となった。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)最新作『マーベルズ』の動向にも注目が集まるなか、第1位に輝いたのは『ハンガー・ゲーム』シリーズの前日譚映画『ハンガー・ゲーム0』。公開後3日間で、4400万ドルを稼ぎ出した。

 ジェニファー・ローレンス主演の『ハンガー・ゲーム』シリーズは、2012年の第1作、2013年の第2作に続き、2014年・2015年に第3作が前後編で公開された。独裁国家パネムを舞台に、少年少女たちが最後の一人になるまで殺し合う“ハンガー・ゲーム”と、彼女たちの革命を描く物語は高い人気を博し、シリーズの世界累計興行収入は約30億ドルに達している。

『ハンガー・ゲーム0』©2023 Lions Gate Films Inc. All Rights Reserved.

 本作『ハンガー・ゲーム0』は邦題のとおり、第1作の64年前を舞台に、のちにパネムの独裁者となるコリオレーナス・スノーの若き日を描く物語。製作・配給のライオンズゲートは5000万ドル超えのスタートを期待していたようだが、残念ながらその数字にはやや届かなかった。シリーズの過去作は軒並み1億ドル超えの初動成績だったが、8年のブランクと、純粋な続編ではない「前日譚」という位置づけ、上映時間157分という長尺がハードルになったとみられる。

 もっとも、『ハンガー・ゲーム0』の滑り出しは決して悪くない……どころか、今後に期待を持てるものと言ってよいかもしれない。海外87市場での興行収入は5450万ドルで、早くも世界興収は1億ドルに迫っている。製作費は1億ドルだが、海外配給権の販売にあたり、ライオンズゲートではなく海外の映画会社が65%を出資しているため、製作のリスクはかなり抑えられているのだ。『マーベルズ』の初動成績4611万ドルが「失敗」と見られたこととは、実際のコストもその成り立ちも大きく異なっている。

 また本作は、皮肉にも『マーベルズ』が掴み損なった「女性」と「Z世代」を映画館へ招くことにも成功した。観客の65%が女性、73%が18歳~34歳だったのだ。スノー役に新鋭トム・ブライス、新ヒロインのルーシー・グレイ役に『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021年)のレイチェル・ゼグラーのほか、同じく『ウエスト・サイド・ストーリー』のジョシュ・アンドレス・リベラ、『ユーフォリア/EUPHORIA』(2019年~)のハンター・シェイファーら注目の若手を多数起用し、オリヴィア・ロドリゴが新曲「Can’t Catch Me Now」を書き下ろすなど、若年層への訴求力を高めたことが功を奏したと言える。

 共演者には、『フェンス』(2016年)などの名優ヴィオラ・デイヴィス、『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011年~2019年)のピーター・ディンクレイジ、ウェス・アンダーソン作品の常連者ジェイソン・シュワルツマンら実力者も多数。全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)のストライキ終結に先がけて暫定合意を結んでいたことで、俳優陣がプロモーションに参加できたことも効果的だっただろう。

 Rotten Tomatoesでは批評家スコア61%とやや評価は厳しめだが、観客スコアは91%と上々。若い世代の口コミも含め、『ハンガー・ゲーム』シリーズに親しんでいない層をキャッチできれば、感謝祭シーズンの健闘と劇場公開での黒字化も期待できる。日本公開は12月22日だ。

『マーベルズ』©Marvel Studios 2023

 この『ハンガー・ゲーム0』を相手に、早くも苦しい戦いを強いられたのが『マーベルズ』だ。北米初動興収がMCU史上最低記録と報じられてから1週間、2度目の週末は1020万ドルで、前週比-77.9%という大幅下落となった。2週目の下落率として、この数字はMCU史上最悪、スーパーヒーロー映画としても近年ワーストだ。

 現時点での北米興収は6502万ドルで、MCU史上はじめて1億ドルに到達しない可能性がある。作品のジャンルやターゲット的に、ライバルはやはり『ハンガー・ゲーム0』だが、翌週には累計興収でもあっさりと逆転されかねない状況だ。世界興収は1億6132万ドルだが、製作費およそ2億ドル、宣伝・広報費1億ドルの回収は難しい。

『サンクスギビング』

 そして驚くべきことに、この週末に『マーベルズ』と真っ向から対決したのは、初登場となったイーライ・ロス監督のスラッシャー映画『サンクスギビング』だった。週末興収は同じく1020万ドルで、最終的にどちらが勝利するかは数字の確定を待つほかない。

 本作は、クエンティン・タランティーノ監督とロバート・ロドリゲス監督が手がけた『グラインドハウス』(2007年)に含まれていた、イーライ・ロスによるフェイク予告編『感謝祭(Thanksgiving)』を、16年越しにロス自ら長編映画化したもの。マサチューセッツの田舎町を舞台に、感謝祭(サンクスギビング)の一夜を殺人鬼が恐怖に陥れる。

 特筆すべきは批評家による評価の高さで、Rotten Tomatoesではロス作品史上最高の83%を記録。観客スコアも79%と、賛否の分かれやすいホラー/スリラー作品としては屈指の好評価となった(映画館の出口調査に基づくCinemaScoreでは「B-」評価)。製作費は1500万ドルで、劇場公開での黒字化も大いにありうる。日本公開は12月29日だ。

 そのほか、今週はアニメーション映画『トロールズ』シリーズの第3作『Trolls Band Together(原題)』が週末3日間で3060万ドルを記録し、ランキングの第2位に初登場。『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』と『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』に次いで、2023年のアニメーション映画としては第3位の初動成績となった。

 『Trolls Band Together』は海外市場で先行公開されており、すでに世界興収は1億ドルを突破(製作費は9500万ドル)。『ハンガー・ゲーム0』と同じく批評家の評価は厳しいが、観客の評価は高く、CinemaScoreでは「A」評価となったほか、女性客の動員にも成功した(男女比では約7割が女性客)。現時点で本作の日本公開は決まっていない。

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