『たとえあなたを忘れても』が心に刺さる理由 痛いほど伝わってくる登場人物たちの葛藤

「どっちが辛いんやろうね。忘れる方と、忘れられる方と」

 『たとえあなたを忘れても』(ABCテレビ・テレビ朝日系)第4話の宮下茜(畑芽育)の問いかけが、ずっと頭のなかに残っている。

 この台詞を聞くまでは、いちばん辛い境遇にいるのは、青木空(萩原利久)だと思っていた。18歳のときから記憶障害を繰り返し、そのたびに人間関係がリセットされてしまう。自分を育てた母親のことも、ずっと支えてくれた藤川沙菜(岡田結実)との思い出も、河野美璃(堀田真由)への淡い恋心も、すべて忘れて“初めまして”の状態に戻ってしまうなんて……。想像しただけでも、胸がギュッと締め付けられる。

 生きていれば、忘れてしまいたくなる嫌な記憶や、「すべてをリセットしてしまいたい」と思うほどに追い詰められる夜に遭遇するものだが、その対価として幸せだった記憶まで失われてしまうとしたら。自分が空の立場なら、忘れたい過去を忘れたまま生きていける人生か、忘れたくない過去まで忘れてしまう人生か、どちらを選択するだろう。

 プラスに考えれば、空はすべてを忘れてゼロから生きることができる。思い出したくない記憶をないものとして生きていけるというのは、その部分だけを切り取れば幸せなことだ。しかし、知らないおばさんが「お母さんよ」という顔をして世話を焼いてきたり、初対面だと思っていた相手に「友達だったはずなのに」と寂しそうな顔をさせてしまったり。「あなたは一度、わたしのこと忘れてる」と愛する人を泣かせてしまうことだってある。

 空自身はゼロから生きようとしても、忘れられた側の記憶は失われない。双方が、どこにも怒りをぶつけられないもどかしさを抱えて生きていかなければならないのだ。

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