『たとえあなたを忘れても』が心に刺さる理由　痛いほど伝わってくる登場人物たちの葛藤

　この作品が刺さるのは、登場人物それぞれの葛藤が痛いほど伝わってくるからだと思う。たとえば、空の治療に対して、正反対な考えを持っている美璃と沙菜。美璃は、「いつ記憶が失われるのか？」とビクビクしながら生活をするくらいなら、どう転ぶかは分からないが、きちんと治療をするべきだという考え。一方の沙菜は、マイナスに進む可能性があるのなら、今ある幸せを守ってあげたいと思っている。

　2人の考えは、どちらも空の幸せを想ってのことだ。リスクがあっても“未来”の平和を選ぶのか。それとも、リスクを排除して“いま”の穏やかな日々を守るのか。きっと、治療がうまくいけば、「美璃のおかげだね」となるし、うまくいかなければ「沙菜の言うことを聞いていればよかったのに」となってしまうのだろう。今回、最終的に治療を受ける決断をしたのは空だが、記憶が戻ってきたことがマイナスに転じてしまった以上、美璃は責任を感じて身を引いてしまう可能性もある。

　正解がないから人生はむずかしい。その現実を、『たとえあなたを忘れても』は突きつけてくる。もしも自分が美璃の立場だったら、空の立場だったらどうしたいのか。どういう選択をするのが、相手にとっての幸せなのか。毎週日曜日の夜、1時間だけでもそんなことを考えられたら。世界は、ちょっぴり温かいものになっていくのかもしれない。夢を失った美璃と、記憶を失った空が奏でる物語は、最終的にわたしたちの毎日に光を灯してくれるものになってほしいと願う。

■放送情報
『たとえあなたを忘れても』
ABCテレビ・テレビ朝日系にて、毎週日曜22:00〜放送
TELASA、U-NEXTにて、見放題配信
TVerにて、放送終了後見逃し配信
出演：堀田真由、萩原利久、風間俊介、岡田結実、畑芽育、松井玲奈、森香澄、丸山智己、須藤理彩、加藤貴子、檀れい
脚本：浅野妙子
プロデューサー：清水一幸、辻知奈美、髙石明彦（The icon）、高橋香奈実（The icon）
演出：大谷健太郎、髙石明彦
音楽：平野真奈、福廣秀一朗
主題歌：由薫「Crystals」（Polydor Records）
制作協力：The icon
制作著作：ABCテレビ
©️ABCテレビ
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