『いちばんすきな花』は“静かな時間”こそが魅力に 時代の空気を掴む脚本家・生方美久

 木曜劇場(フジテレビ系木曜22時枠)で放送されている『いちばんすきな花』は、2022年に話題になった『silent』(フジテレビ系)の脚本を担当した生方美久の新作ドラマだ。

 主人公は、塾の講師で34歳の潮ゆくえ(多部未華子)、出版社で働く36歳の春木椿(松下洸平)、美容院で働く26歳の深雪夜々(今田美桜)、コンビニでバイトしながらイラストレーターになる夢を追いかけている27歳の佐藤紅葉(神尾楓珠)の4人。偶然知り合った4人は、椿の家に集まり、静かに語り合うようになっていく。

 本作が描いているのは「2人」という人間関係の難しさだ。

 「2人というのは難しい。あらゆる人数の中で2人というのは特殊で、2人である人たちには理由や意味が必要になる」というゆくえのモノローグが第1話で流れるのだが、ここで言う「2人」とは恋人、夫婦、親友、母娘といった二者関係のことだ。共に生きるパートナーを見つけることが、この世界でもっとも尊いことで、パートナーのいない自分は他の人たちと比べて何か大事なものが欠けているのではないか? という根源的な不安を本作は突いてくる。

 パートナーと呼べる相手がいないことに対して負い目を感じている人にとっては、痛いところを突いてくるテーマ設定である。

 ゆくえたち4人は幼少期から周りの空気を読んで周囲に歩調を合わせて、はみ出さないようにして生きてきた。だからこそ本心が言えず、大勢の中にいても深い孤独を抱えており、他人から嫌なことを言われても、反論せずに笑顔でやり過ごそうとしてしまう。

 ゆくえたちが抱えている不安は誰もがどこかで感じていることで、若者にとって一番切実な悩みではないかと思う。

 この問題意識を共有できている人は本作の世界にすぐに没入できるのだが「そんな当たり前のことで悩まなくても」と思ってしまうと、物語に距離を感じてしまう。

 筆者は現在40代後半で4人の中で最年長の椿よりも年齢が一回り上だが、歳を重ねると悩みの質が生活に関わる具体的な問題へと傾いていくため、ゆくえたちが感じている悩みに対しては距離を感じることが多い。だが一方で、こういった悩みと真剣に向き合えるゆくえたちの若さが羨ましくもある。

 それはそのまま、生方美久を中心とするドラマの作り手に対する羨ましさであり、このような難解なテーマと真正面から向き合う志の高さに毎週、感服している。

 一方、肝心の物語についてだが、先週、第4話が終了したが、ドラマの全貌はまだ見えておらず、着地点が全くわからない。

 よくある恋愛ドラマなら、最終的にゆくえたち4人が2対2のカップルに収まるのかもしれないが、そんな単純な結論に落とし込むのなら、最初から「2人」というテーマを選んだりはしないだろう。

 それにしても、人が生きていく上で共に過ごす人間は何人が理想なのかと本作を観ていると考えてしまう。その意味でとても観念的な作品である。

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