『どうする家康』松本潤がついに“白兎”から“狸”へ “か弱きプリンス”からの変遷をたどる
『どうする家康』(NHK総合)の主人公、徳川家康(松本潤)は厳しい剣術の稽古から逃げ出して、隠れてままごと遊びを楽しむような子どもだった。そもそも自分からケンカを仕掛けるような強気なタイプではないし、お世辞にも生まれながらに天下人の器だったとは言いがたい。弱腰で優柔不断な殿は、大きな問題を前にすると「どうすりゃええんじゃ」と苦悩し、家臣団をヤキモキさせていた。
そう、本来の家康は戦嫌いなのだ。剣術の稽古をサボっていた頃のように危険な戦などから逃げて、どこか静かな場所で豊かな時間が過ごせたらどんなによいか……。ただ、生まれた時代と立場が彼を試練に立ち向かうよう宿命づけてしまった。迷ったり、逃げたりしていては大切な人も、大切なものも奪われてしまう。
乱世に翻弄される中で家康は多くの人と出会い、そしてたくさんの悲しい別れを経験し、大切な人も失った。その亡くなっていった人たちに託された思いをすべて背負って生きていきると受け入れてから家康は変わった。
第40回「天下人家康」の予告で「白兎は狸に化ける」とあるが、家康が化けるきっかけとなったのは正妻の瀬名(有村架純)と嫡男・信康(細田佳央太)を亡くした出来事が大きく影響している。家康にとって、人生最大の「どうする?」を突きつけられた事件で、信長(岡田准一)との関係性にも変化が訪れた。
瀬名は家康にすべてを託し、逃げることを拒んだ。「よいですか、兎は強うございますよ。狼よりもずっとずっと強うございます。あなたなら、できます」と言った瀬名。家康は瀬名の夢を実現するために生きる覚悟を決めた。
ちなみに、家康のことを最初に「白兎」と呼んだのは、凶暴な狼のように威圧感たっぷりの信長だった。信長は、瀬名と信康の事件を境に本心を見せなくなった家康の変化を察しつつ、家康が案内してくれた富士遊覧の旅を楽しみ、家康への特別な思いを垣間見せた。そして、本能寺の変が起きる直前、第27回「安土城の決闘」で信長は「本当にお前が俺の代わりをやる覚悟があるなら俺を討て。待っててやるさ。やってみろ」と家康に言った。討たれるならば家康に討ってほしいし、天下をと取るのも任せるという。どれだけ家康を買っているのか、家康が躊躇するのも無理ない。
また、信長亡き後に天下統一を果たした秀吉(ムロツヨシ)も歌うように「白兎~白兎~」と節をつけてつぶやいたことがある。ナイーブな青年の頃の家康を白兎に例えた瀬名と信長は自分の夢を家康に託して亡くなった。そして秀吉は第39回「太閤、くたばる」でその波乱万丈の人生の幕を下ろした。死の間際には最愛の息子・秀頼のことはもちろん、家康に「すまんのう。うまくやりなされや」と朝鮮出兵などで乱れた世の後のことを託した。秀吉は最期まで現実的なのだ。