宇野維正の興行ランキング一刀両断!

『バービー』以上の北米との温度差? テイラー・スウィフトのコンサート映画、不発の理由

 10月第3週の動員ランキングは、『ミステリと言う勿れ』が週末3日間で動員14万2000人、興収1億9800万円をあげて、今年初の5週連続1位を達成。公開31日間の累計動員は278万1800人、累計興収は37億6400万円。5週連続で1位を記録した邦画実写作品は、2021年1月29日公開『花束みたいな恋をした』(6週連続1位)以来2年半ぶり。いずれも菅田将暉主演作(『花束みたいな恋をした』はダブル主演作)ということで、作品にハマった時の菅田将暉の動員力が、現在の日本映画界において頭一つ抜けていることを改めて証明した。

 今回取り上げるのは、ランキング外となったが、10月13日に世界同時公開された『テイラー・スウィフト:THE ERAS TOUR』だ。自主制作による海外のシンガーソングライターのコンサート映画ということで、ニッチなジャンルの作品だと思う人もいるかもしれないが、本連載で取り上げる理由は二つ。一つは、本作が北米のオープニング成績で興収約9300万ドルを記録し、10月公開作としては2019年公開の『ジョーカー』に次ぐ歴代2位という空前の大ヒットとなっていること。もう一つは、北米では大手劇場チェーンのAMCと直接契約を結んで公開されたことで話題となっているが、ここ日本ではメジャー配給(東和ピクチャーズ)によって全国約200スクリーンでの公開と、いわば通常の興行ランキングの土俵に相応しい規模の興行であることだ。

 ちなみに、日本ではちょっと多すぎるように思えるスクリーン数に関しては、契約でこれ以下の規模での公開はできなかったという。また、本作は英語圏以外の公開国でも、楽曲のパフォーマンス中はもちろんのこと、曲と曲のあいだのMCにも一切字幕が入ってないが、これも「コンサートと同じように楽しんでもらいたい」という製作元の方針だという。

 今年の春から夏にかけて開催された北米ツアーでは、空前のチケット争奪戦が繰り広げられ、数10億ドル単位の莫大な収益が見込まれているテイラー・スウィフトのTHE ERAS TOUR。もっとも、北米以外の地域ではまだほとんど開催されていなく(日本公演は来年2月7日、8日、9日、10日の東京ドーム4公演)、コンサートに行きたかったけど行けなかった人々のニーズが高まっていた北米と、それ以外の地域では温度差が出るのは致し方ないこと。それは数字にも表れていて、全世界のオープニング興収の75%以上が北米となっている。(※)

 ただ、それを差し引いても日本での興行、特に東京以外での興行は相当厳しいものだった模様。日本でも2021年に嵐のコンサート映画『ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories”』(自主制作作品という点でも今回のテイラー・スウィフトの作品に先駆けた作品だった)が最終興収50億円以上、今年もBTSのコンサート映画『BTS: Yet To Come in Cinemas』が最終興収25億円以上を記録するなど、コンサート映画自体のニーズがないわけではない。ただ、テイラー・スウィフトに限らず、日本と韓国以外のアーティストのコンサート映画が数十億円規模のヒットを飛ばすのは、なかなか想像しにくいというのが現状だ。今回の『テイラー・スウィフト:THE ERAS TOUR』に関しては、テイラー・スウィフト・サイドが世界同時公開にこだわったこと、そしてそもそもの公開規模が、少なくとも日本の興行においては失敗に終わってしまった原因だろう。

参照

※ https://www.boxofficemojo.com/title/tt28814949/?ref_=bo_se_r_1

■公開情報
『テイラー・スウィフト:THE ERAS TOUR』
全国公開中
監督:サム・レンチ
出演:テイラー・スウィフト
配給:東和ピクチャーズ
169分/原題:Taylor Swift: The Eras Tour
©2023 Trafalgar Releasing. ALL RIGHT RESERVED.

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