橋本環奈が1円にこだわるヒロインに 過去作のオマージュから考える『トクメイ!』の新しさ
警察に舞い降りた経理の不正を追及するニューヒーロー、その名は“1円”! やれ増税だ、いやその前に無駄な支出を削れなど議論がさかんな世の中で、倹約の大波は現場の警察官にも押し寄せていた。橋本環奈主演の『トクメイ!警視庁特別会計係』(カンテレ・フジテレビ系)は、笑いあり、サスペンスありの新しいタイプの刑事ドラマとなった。
財政破綻から警察を救うべく本庁から万町署に派遣された特別会計係。節約を呼びかける一円(橋本環奈)はとことん煙たがられ、所轄の刑事たちとかみ合わない。運が悪すぎてついたあだ名が「疫病神」。特技はお金の計算という特殊能力は空回りし、強行犯係の湯川係長(沢村一樹)とことあるごとに対立する。キャストの顔ぶれから、コメディーな展開を期待していた人は若干肩透かしをくらった気分だったかもしれない。
捜査雑費は20%削減、一般捜査費も徹底して無駄をチェック。小姑感が満載のキャラに、このままだとヒロインが嫌われてしまうと余計な心配をしそうになるが、そこは天性のコメディエンヌである橋本。ギスギスしそうな場面も、そこはかとなく緩さを醸し出すのはさすがである。また、沢村一樹や福田雄一監督作品で何度も共演してきた佐藤二朗をはじめ、松本まりか、徳重聡、ものまね芸人のJPらで構成される芸達者な共演陣が、風通しの良い空間を作り出した。
タイトルロールで過去・近年の刑事ドラマと名作映画のパロディを盛大に披露している本作の見どころは、従来の刑事ドラマと異なる視点。経費の使われ方から捜査状況を把握するのは「事件は現場で起きている」の逆だし、特殊なスペックを発現するのではなくコツコツと計算し、派手なカーチェイスやアクション、爆発シーンはなし。それでも、事件は解決するのだ。どうやって? 真実を知っているのは家政婦でも監視カメラでもなく、お金。1円玉にその答えはあった。
お金と経理のことは冴えまくっているのに、その他のことになると運からも見放される円は、1人では事件を解決に導けない。犬猿の仲の湯川や強行犯係がいて初めて犯人を逮捕できる。劇中の円の立ち位置は、刑事と対立するのではなく、共通の目的を持つ仲間であることがはっきりしている。その反面、警察内部の不正を告発する脅迫者Xの顔も円は持っている。表と裏の両面を使い分ける円は、いったい何が目的なのか。円が担う特命とともに、本作の注目ポイントと言えるだろう。