『ONE PIECE』原作者・尾田栄一郎監修の安心感 その起点となった『STRONG WORLD』

『ONE PIECE』原作者監修の安心感

 第12作となる『ONE PIECE FILM Z』も同様に、尾田が総合プロデューサーとして深く作品に関わったことで、原作の世界を拡張したり接続したりする作品になった。何しろあの青雉クザンが登場する。ルフィの兄のポートガス・D・エースが命を失い、白ひげも倒れたマリンフォード頂上決戦で、海軍大将として主導権を争った赤犬に破れ、海軍を去ったと言われていたクザンが健在なところを見せ、ルフィが戦う相手となったゼファーという元海軍大将について、ルフィに語って聞かせる。

 海軍大将として並々ならぬ正義感を持って海賊と戦い、後に続く世代の育成にも情熱を傾けてきたゼファーが、新世界を滅ぼそうとするまでになってしまった経緯から、世界政府や海軍の決して正義にまっすぐとは言えない態度が見えてくる。世界政府のヤバさはその後の漫画でもアニメでも繰り返し描かれ、『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載中の「エッグヘッド編」で、五老星の直接的な暴威となって本格的に姿を現す。

 ゼファーは『ONE PIECE』世界の生みの親だからこそ作り出せたキャラクターで、物語もすべてを知り尽くした原作者だからこそ描けたと言える。だから、『FILM Z』を観た人の誰も枝葉末節なエピソードだとは思わず、作品世界により深く入るために新たに開いた窓として楽しんだ。キャラクターの繋がり具合から原作との密接度が『STRONG WORLD』よりも高そうなことも、『STRONG WORLD』を超える68億円の興行収入を稼ぎ出した背景にありそうだ。

 197億円の興行収入を獲得し、再上映で200億円超えも確実な『ONE PIECE FILM RED』も、そうした原作との密接な関わりが観客に目を向けさせる理由にあった。TVアニメではまだ未登場だった「ギア5」の一足早い披露も、ファンをただ喜ばせるだけでなく、四皇の一人であり、子どものころから目指していた赤髪のシャンクスに並ぶ存在に並ぶルフィが到達したことを印象付け、実際に四皇となってクライマックスへと突き進む「エッグヘッド編」に説得力を持たせた。

 ファンサービスに留まらない作品の魅力の増大や、作品世界の拡張を図る上で劇場版への原作者の参画には、大きな意味があると言えるだろう。

 それは、原作者の井上雄彦が自ら監督を務めた映画『THE FIRST SLAM DUNK』でも明らかだ。それこそコマの1枚1枚に原作者の手が入れられた映像は、漫画がそのまま動いているような感覚を観る人に与えた。桜木花道を脇において宮城リョータを主役に据えた構成は、作品世界を崩すことなく違う方向から湘北高校バスケットボール部の戦いを描き出した。

 原作者の青山剛昌が脚本や絵コンテをチェックすることで知られる『名探偵コナン』の劇場版も、キャラクターや世界観への支持をそのまま受け継ぎながら新しい見え方を与えることに成功し、興行収入を伸ばし続けている。最新作となる『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』は、シェリーこと灰原哀と黒ずくめの組織との因縁浅からぬ関係を描いてファンを喜ばせた。

 『ONE PIECE』の劇場版に対する尾田の関わり方は、それらにも増して深く熱いものとなっている。このため1年に1作といったペースでは作れず、監修として参加しただけの第14作『ONE PIECE STAMPEDE』から『FILM RED』まで3年かかってしまった。今後はこれに、Netflixによる実写ドラマシリーズ『ONE PIECE』の第2シーズンへの関わりも乗ってくる。原作も原作として毎週クライマックスのような状況が続く中、尾田は続く劇場版『ONE PIECE』で何を見せるのか。興味は尽きない。

■放送情報
土曜プレミアム『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』
フジテレビ系にて、10月14日(土) 21:00~23:10放送
出演: 田中真弓、中井和哉、岡村明美、山口勝平、平田広明、大谷育江、山口由里子、矢尾一樹、チョー 
ゲスト声優:竹中直人、北島康介、皆藤愛子
原作・映画ストーリー・製作総指揮:尾田栄一郎(集英社 週刊『少年ジャンプ』連載)
監督:境宗久
脚本:上坂浩彦
主題歌:Mr.Children「fanfare」(TOY'S FACTORY)
©尾田栄一郎/集英社・フジテレビ・東映アニメーション
©「2009 ワンピース」製作委員会
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/movie/

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