『何曜日に生まれたの』最終回を考察 野島伸司脚本はバッドエンドもあり得るか?

 最終回を前に分かったのは、10年前のバイク事故の際、たまたま通りがかり、救助して病院まで運んだのが公文だったこと。実は、すいは10年前から公文に見守られていた。公文が10年前に通りがかったのは、病院に収容されている妹の蕾のお見舞いの帰り道だったのだ。

 蕾は中学から不登校となり、母親とその再婚相手を包丁で刺し、医療少年院へ送られ、その後も自傷行為を繰り返し、病院に収容されている。オレンジ色の髪でアガサとして接しているのは、蕾という自分をなくさせるため。公文の代表作『死にたがる彼女を1000回救う』のヒロインのモデルが蕾なのだ。そのことについて公文は、かわいそうな妹を描いて成功し、悪魔に魂を売り渡したのだという。この引きこもりの妹の存在とその罪悪感が、すいを救うきっかけだったのではないか。

 すいは公文によって自分が救われたように、蕾を救い、過去のトラウマから仮面を被り続ける公文も救いたいと思う。しかし、すいが蕾に接触したことは、家族にとって非常に余計なことであり、危険なこと。そのパンドラの箱を開けることが果たして幸せに繋がるのか。そこが最終回の焦点の一つとなる。

 前回のラストで、アガサの格好をしたファン(山之内すず)が公文を刺す。ただこれは、登場人物を自分のことだと思い込んでる狂信的なファンで、深い関係性はないと推測する。予告動画を見る限り、最終回は公文が死んだ後の世界の可能性も考えられる。第8話では、最終話を書いて物語を終わらせるために自分がいなくなった後のことを考え、高校生時代にすいと相思相愛だった江田悠馬(井上祐貴)に「あなたにお願いしたい、陰に日向に、彼女を支えてください。友達としてではなく、1人の男性として」と託した。これは物語を面白くするためなのか、すいへの本当の恋愛感情か。少なくともどこか死を予感させるもので、刺されたのも公文にとって想定内の展開かもしれない。

 最終回は、サッカー部とマネージャーたちの間で「嘘をついてはいけない場所」という思い出の「ホントの海」で江田がすいに告白をするという、公文のシナリオ通りの展開となりそうだが、嘘をつけない場なので、愛の告白ではなく、公文の思いを伝えそうな気もする。今作は、かつての野島ワールドを意識した作品であり、そう簡単にハッピーエンドは迎えないだろう。

 そもそも江田は、すいのマネージャー仲間で大親友の瑞貴(若月佑美)と結婚していたが、表向きは浮気、実際は子供の有無の考えの違いで離婚していた。瑞貴はすいの高校時代の親友でもあるが、実は江田を巡りすいを排除していた“悪女”だという過去が分かり、今ではそのわだかまりも解消しすいの良き理解者となっていた。だがやはり離婚したばかりの江田とすいがくっついたら面白くなく、公文も瑞貴が「登場人物として最後まで悪女でいてほしい」と言っていたので、最後に瑞貴がすいをブスッと刺しバッドエンド、というのも野島作品ならありえる。

 また、もし公文が生きていたとしても、蕾のパンドラの箱を開けたことで、最後に蕾がブスッと刺す展開も考えられてしまうが、それは長年野島作品を観続けてきた悪いクセだろうか。

 どちらのバッドエンドを迎えたところで、全ては公文、もしくは丈治の物語の中の世界な気がするが、夢や物語オチというのは最も野島らしくないので、そこがどう転ぶのか。野島作品の原点は、陣内孝則が主演を務めた1989年の『愛しあってるかい!』(フジテレビ系)といったラブコメでもあるので、最後に丈治が「愛しあってるかい!」と描くハッピーエンドもありだが、果たして。

 今作は、日曜22時という『VIVANT』(TBS系)の影に隠れて見逃していた人も多いかと思われるが、かつての野島ワールドが堪能できる秀作なだけに、視聴者の心に刻まれるような劇的な最終回を期待したい。

■放送情報
『何曜日に生まれたの』
ABCテレビ・テレビ朝日系にて、毎週日曜22:00~放送
TVer、ABEMAにて、地上波放送終了後見逃し配信 
TELASA、U-NEXTにて、第1話~最新話まで見放題配信
出演:飯豊まりえ、溝端淳平、井上祐貴、YU、若月佑美、片山友希、濱正悟、白石聖、早見あかり、シシド・カフカ、陣内孝則
脚本:野島伸司
企画・プロデュース:清水一幸
プロデューサー:南雄大、松原浩、柴田裕基、難波利昭
演出:大塚恭司、岩本仁志、松原浩
音楽:福廣秀一朗
主題歌:The Hollies「Bus Stop」
制作著作:ABCテレビ
©︎ABCテレビ
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