『リバイバル69』フェス開催までの波乱の内幕 ジョン・レノンが選曲に込めた“意味”とは
『真夏の夜のジャズ』(1960年)、『ウッドストック/愛と平和と音楽の3日間』(1970年)、『ワッツタックス/スタックス・コンサート』(1972年)――音楽フェスのドキュメンタリーは昔から音楽映画の定番モチーフとして確立されているところがあるが、そのバリエーションに関してはここ数年で一気に多様化してきた印象を受ける。象徴的な作品には『FYRE:夢に終わった史上最高のパーティー』(2019年)、『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』(2021年)、『とんでもカオス!:ウッドストック1999』(2022年)などがあるが、10月6日公開の『リバイバル69 ~伝説のロックフェス~』もそんな潮流を強く感じさせる作品だ。
『リバイバル69』で題材になっているのは、1969年9月13日にカナダのトロント大学構内にあるヴァーシティ・スタジアムで開催された『トロント・ロックンロール・リバイバル1969』。まだビートルズに在籍していたジョン・レノンとオノ・ヨーコがエリック・クラプトン、クラウス・フォアマン、アラン・ホワイトを率いてプラスティック・オノ・バンド名義でリリースしたライヴアルバム『Live Peace in Toronto 1969』(邦題『平和の祈りをこめて』)の音源として知られているイベントだ。1971年にはボブ・ディランのドキュメンタリー『ドント・ルック・バック』(1967年)で名高いD・A・ペネベイカー監督が『スウィート・トロント』のタイトルで映像作品化しているが、その実態や内幕が明らかにされるのは今回が初めてだろう。
「ロックンロールの復興」を謳ったタイトル通り、出演アーティストは1950年代に一世を風靡したしたロックンロールのパイオニアが中心。チャック・ベリー、ボ・ディドリー、リトル・リチャード、ジーン・ヴィンセント、ジェリー・リー・ルイスなどのほか、当時の新世代であるドアーズ、シカゴ、アリス・クーパー、そして先述のプラスティック・オノ・バンドらが名を連ねる。企画/主催は弱冠22歳の音楽プロデューサー、ジョン・ブラウワー。開催に漕ぎ着けるまでのトラブルに次ぐトラブル、大胆な秘策がもたらすミラクルに次ぐミラクルは、むしろドラマ化すべきだったのでは、と思わされるほどに非現実的でスリリングだ。
映画は関係者の貴重な証言にポップなアニメーションを交えて進行していくが、やはり目を惹きつけられるのは要所要所に挟み込まれるライヴ映像、特にパイオニアのステージだ。1969年の時点で「ロックンロールの復興」をコンセプトに掲げる大規模なイベントを開催するのは相当に画期的な試みだったはずで、それは芸術性の高い音楽へと進化していったロックが初めて自らのルーツに正面から向き合った瞬間と言ってもいいと思うのだが、そんな歴史的な舞台に敬意をもって招かれて若いミュージシャンやオーディエンスと交流を図る重鎮たちの表情は一様に晴れやかだ。
もっとも、当時すでにレジェンド扱いされていた彼らではあるが、実はこのとき最年長のチャック・ベリーで42歳、最年少のジェリー・リー・ルイスに至ってはまだ33歳だったことは強調しておきたい。各々の熱演を見てもらえば一目瞭然だが、ミュージシャンとしてはまさに脂が乗りきっているタイミングだったのだ。