朝ドラ『ブギウギ』主人公のモデル・笠置シヅ子とは? 激動の生涯をたどる

出生の秘密

 『ブギウギ』の鈴子は、大阪の下町・福島にある銭湯「はな湯」を営む遊び人の父・梅吉(柳葉敏郎)としっかり者の母・ツヤ(水川あさみ)、個性的な常連客たちに囲まれてのびのびと育つ。

 笠置も福島で銭湯を営んでいた父・音吉と母・うめのもとで育っている。しかし、笠置の出生には秘密があった。音吉とうめは実は血のつながらない養父母だったのだ。笠置がそのことを知ったのは、18歳のときである。

 香川県で生まれた笠置の実父は、笠置が生まれた翌年に25歳で病死、まだ10代だった実母は乳の出が悪く、偶然近所に帰省中だったうめにもらわれることになったのだという。うめは困っている人を見捨てることができない、義理人情に厚い女性だった。

 その後、30代後半になった笠置は、実父の友人だった戦後初の東大総長・南原繁から初めて実父の人となりや実母との交際のことなどを詳しく聞くことができた。南原はその後、笠置の後援会長となって笠置を見守り続けた。

芸人たちとの関係

 笠置シヅ子と深い関係のあった芸能界の大物が三人いる。“ブルースの女王”淡谷のり子、“喜劇王”榎本健一、そして“歌謡界の女王”美空ひばりだ。

 服部良一をそれぞれ師に持つ淡谷と笠置はライバル同士でもあった。“静”の淡谷と“動”の笠置は対照的なスタイルを持つ歌手であり、ときに淡谷は辛辣に笠置を批評することもあったが、お互いを知り尽くした友人同士として晩年まで交流を続けた。淡谷は笠置の家に遊びに来るたびに娘のエイ子に「お母さんに感謝しなさいよ」と言っていたという。

 笠置は歌だけでなく、喜劇の舞台や映画でも大活躍を見せている。彼女にとっての音楽の師が服部良一なら、喜劇の師はエノケンこと“喜劇王”榎本健一だった。戦前から絶大な人気を誇った榎本が、初めてタイトルに二人の名前が連名で入る二枚看板を許した相手が笠置である。病に倒れた榎本の舞台を、超多忙だった笠置が急遽広島まで駆けつけて代演したこともあった。義理人情を大切にした笠置らしい出来事である。

 “歌謡界の女王”として知られる美空ひばりは、天才少女として世に出た11歳の頃、「ベビー笠置」「豆笠置」というコピーをつけて、笠置のモノマネをレパートリーにしていた。後に、笠置の持ち歌をめぐって二人の間には確執めいたものが生まれる。やがて「ブギの女王」の時代の終焉とともに、入れ替わるようにやってきたのが美空ひばりの時代だった。

すっぱりと引退

 ブギのブームが下火になった1957年(昭和32年)、笠置は突然歌手廃業を宣言する。40歳を過ぎて、かつてのように歌い踊れなくなったことが原因だったと言われている。その後、個性派女優に転身した笠置は、テレビCMやバラエティでも活躍したが、何度も起こった「懐メロ」ブームでは一度も歌わなかった。

 笠置はがんとの闘病の末、1985年3月30日、最愛の娘に看取られて息を引き取る。享年70歳。葬儀委員長を務めたのは77歳の服部良一だった。

 『らんまん』では牧野富太郎をモデルにした槙野万太郎(神木隆之介)の一生が老境まで描かれたが、はたして『ブギウギ』では笠置をモデルにした鈴子の生涯がどのように描かれれるのだろうか。

参考

『ブギの女王・笠置シヅ子 心ズキズキワクワクああしんど』砂古口早苗(潮出版社)

■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
写真提供=NHK

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