『らんまん』は“死”よりも“生き様”を描く 万太郎が寿恵子に誓った永遠の愛に涙

『らんまん』は“死”よりも“生き様”を描く

 『らんまん』(NHK総合)の週タイトルが全て植物の名で統一されているのは、放送が終わった時、それ自体がまた万太郎(神木隆之介)の植物図鑑として完成されているようにという、脚本の長田育恵の思いからだった。最終回にて『槙野日本植物図鑑』はついに完成を迎えるが、分厚いその本のページを万太郎が捲る毎に、これまでのオンエアの記憶がぶわっと蘇っていった。寿恵子(浜辺美波)の好きな牡丹に、園子を象徴するヒメスミレ。『らんまん』は万太郎と寿恵子たちの冒険とその人生が咲き誇っていく物語であるが、この半年にわたる放送は、我々視聴者との冒険の日々でもあったのだと、そこで気付かされた。

 万太郎のモデルとなった牧野富太郎の史実を、例えばネットにて少しでも調べれば、「スエコザサ」の発表の直前に妻・壽衛が亡くなっていることは明らかであり、おそらく多くの視聴者がそこまでとその後の物語をどう描いていくのかに注目が向いていた。8月25日という少し早めの出演となった浜辺美波の『あさイチ』(NHK総合)「プレミアムトーク」はそのことに拍車をかけていたが(本人は番組内で否定していた)、今では杞憂だったと言える。

 その後の時代を生きる千鶴(松坂慶子)と語り部としての存在にある紀子(宮﨑あおい)を登場させる最終週全体としての仕掛けは見事であり、その前半の展開があってこその万太郎と寿恵子のラストで物語は美しく幕を閉じていく。史実では牧野富太郎の植物図鑑に「スエコザサ」は載っていないという。それについてはいろいろな見方がされているが、この『らんまん』では3206種目の、最後に加えた新種として「スエコザサ」が掲載されている。

 図鑑の完成は万太郎が命の続く限りに後世へと手渡すためという目的もあるが、寿恵子と生涯をともにすることを誓いあったあの日の大切な約束、そして天国にいる園子への贈り物でもあった。関東大震災で多くの標本を消失しながらも、万太郎はさらに標本と解説文のアップデートを繰り返し、植物学者であり理学博士としての誰にも真似することのできない植物図鑑を作り上げた。そこには謝辞のページに名前が並ぶ、田邊(要潤)や徳永(田中哲司)、藤丸(前原瑞樹)、波多野(前原滉)、野宮(亀田佳明)といった大切な仲間、たくさんの出会いがあった。

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