『呪術廻戦』おやすみ、五条悟 現代最強の術師が「渋谷事変」で封印されてしまった理由

「五条悟が、封印された」

 アニメ『呪術廻戦』第33話「渋谷事変/開門」のラスト、虎杖悠仁がメカ丸から伝え受けた言葉は、残された呪術師に限らず、人間界にとって衝撃的な内容のものだった。花御を祓い、漏瑚と真人、脹相との戦いでも圧倒的な強さを見せつけた五条。彼は呪霊組が「するはずがない」と高を括っていたのに対し、0.2秒間の間「無量空処」を放った。

 「するはずがない」と思われていたのは、五条悟が虎杖や他の呪術師に比べて多少“冷酷”であったとしても、自ら非術師を戦いに巻き込んで殺すことはないと推測されていたからだ。しかし「懐玉・玉折」編を振り返れば、弱き者(非術師)を守ることにおいて彼は一定の倫理観や共感力が欠如していたことがわかる。離反した親友・夏油傑に向けて、新宿の人混みの中で「茈」を撃とうとさえしていた。それをやめたのは、親友への躊躇いであって周りの人間を巻き込まないように考え直したわけではなかったように思う。あくまで彼の気遣いは、夏油にしか向けられていなかったのではないだろうか。

 しかし五条は、“冷酷”ではない形……非術師が廃人化しないよう自ら目安時間を設定して領域を展開。そして領域解除後、彼らの意識が戻らないうちに299秒で1000体もの改造人間を倒す。凄まじいスピードで走り回る五条のアニメーションの背景に流れるジャズサウンドは、まさに“即興”とセンスでしかない彼の戦い方そのものを表現していた。

 呪霊たちの誤算は、“五条悟”のことはわかったつもりでも、“五条先生”について知らなかったことである。聡い仲間を増やすためにも、自分の生徒に対して自らが手本になって「非術師を守ること」を教えなければならない五条。それは、かつてその理念がぶれてしまったが故に離反した夏油のような存在を二度と作らないためだが、そのモラルを説いたのは他でもなく彼の唯一の親友であることが切ない。その点からも、五条にとって夏油が特別な存在であることを改めて考えさせられる瞬間だった。

 それなのに。いや、そうだからと言うべきか、その五条の想いを利用したのが偽夏油である。第1期から獄門疆を用意し、虎視眈々と封印のために進めてきた「準備」が末恐ろしい。夏油の肉体を奪ったのも、彼の術式を使用すること、そして五条を動揺させるためだった。加えて高専関係者に見つからないために残穢を残さないようにしていたのも、指名手配されているからだと読者をミスリードさせながらも、本当は夏油の呪力を間違えることのない五条から姿を隠すためだった。全ては、「自分が手にかけた親友が生きていること」への混乱と動揺、そして心身共に消耗した状態の五条に“3年間の青い春”を思い出させるためのお膳立てだったのだ。

 五条に「や! 悟。久しいね」と話しかける声は夏油傑そのものなのに、「きっしょ」と言うあたりから一気に別人であることがわかる、声優・櫻井孝宏の素晴らしい演技がシーン全体の惨さを強調させている。

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