『らんまん』神木隆之介の“唯一無二性” コミカルとシリアスを表現した多面的な万太郎像

 とはいえもちろん、神木が提示した万太郎像は明るいものだけではなかった。生家である造り酒屋の「峰屋」から離れ、生涯のパートナーとなる寿恵子(浜辺美波)に必死に想いを告げ、幸せの絶頂期に愛する祖母(松坂慶子)や生まれたばかりの娘を失っている。それに誰かに頭を下げる場面も少なくなかった。植物学者として身を立てる道は険しいのだ。神木はそれぞれのシーンごとにシリアスな感情をつくっていたが、それらにはグラデーションがあった。声量も身体の扱いも何もかもが違う。ときに穏やかであったが、またときには激情がほとばしるものでもあったのだ。

 神木はこのコミカルとシリアスを往来しながら多面的な万太郎像を立ち上げ、そこにグラデーションを生み出したことがキャラクターの深みにつながった。いつまでも少年の心を忘れないコミカルさと、物語の展開を締めるシリアスさ。万太郎を演じる者は、この二つを体現できる俳優でなければならなかった。朝ドラとは若手俳優にとっての登竜門的なものとして位置づけられたりもするが、まだキャリアの浅い者にこれだけの表現力を求めることは難しいだろう。

 映画にドラマにと出演し続け、人生のほとんどを俳優として生きてきた神木のような人物にしか務めることのできないものだと思う。それも、彼の年齢であれだけのキャリアを築き上げてきていることを考えると、神木は唯一無二の存在だといえるだろう。やはり槙野万太郎の役は、神木隆之介しかあり得なかったのだ。

 朝ドラで主演を務める者には“国民的俳優”の称号が与えられるが、神木はずっと前から国民的俳優だった。『妖怪大戦争』(2005年)、『探偵学園Q』(日本テレビ系)、『11人もいる!』(テレビ朝日系)、『桐島、部活やめるってよ』(2012年)、『君の名は。』(2016年)、『3月のライオン』(2017年)、『コントが始まる』(日本テレビ系)といった彼の代表作の中の新たな一作として、『らんまん』はこれから語り継がれていくのだろう。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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