リン・ズーホンがコミカルな演技で新境地 笑い満載の『緑島金魂』に感じる台湾への深い愛

フレッシュな若手とベテラン俳優のアンサンブル

 キャストの豪華さもこのドラマの魅力だ。コテコテの演技で盛り上げるベテラン陣の中で、フレッシュな若手が力強い好演を見せる。彼らが織りなす一風変わったアンサンブルに注目してほしい。

 楊志傑を演じるリン・ズーホンは、台湾のアイドルグループSpeXialのメンバーとしてデビュー。BLドラマ『We Best Love 永遠の1位/2位の反撃』で、日本のドラマにも出演している俳優YUと美しいラブストーリーを紡ぎ、人気に火がついた。『緑島金魂』では、イケメンイメージを覆すようなコミカルなシーンや変顔を振り切った演技でこなし、新境地を開拓。一般人が着ると残念なチンピラになり得る微妙なファッションも抜群のスタイルでクリアし、喧嘩っ早いが心優しい青年を生き生きと演じている。

 そんな志傑と不思議な絆で結ばれていくのが、物語のキーパーソンとなる緑島の囚人・林正興(リン・ジョンシン)と、金の採掘に訪れた一行が宿泊するホテルのフロント係・小嬛(シアオホワン)だ。正興を演じる顏毓麟(ヤン・ユーリー)は、『時をかける愛』や『最後の雨が降るとき』など話題のドラマに出演し、その高い演技力で強烈な印象を残してきた実力派。志傑と正興に芽生える友情の行方は、このドラマの大切なストーリーラインの1つ。小嬛を演じる葉星辰(イエ・シンチェン)は、大ヒット映画『KANO〜1931海の向こうの甲子園~』で注目され、北村監督のドラマ『恋愛沙塵暴(原題)』などに出演。主演ドラマ『サンドイッチガールの逆襲』ではリン・ズーホンと共演しており、本作でも息の合った掛け合いを見せている。

 他にも、個性豊かな登場人物を演じる俳優陣は、客演に至るまで、数々の演技賞を受賞してきたベテランや演技派ぞろい。濃いキャラが「これでもか」と登場し、たとえ出番が短くても各々が爪痕を残していく。

物語に込められた台湾への愛

 このドラマから濃厚に感じられるのは、台湾への深い愛だ。一般的に、台湾のドラマで話される言葉は、公用語の台湾華語(いわゆる「中国語」)である。しかしこのドラマでは、大半のシーンで話し言葉として台湾で長く培われてきた台湾語を使い、台湾本島や若い世代の会話では台湾華語を使うという配分になっている。

 近年、ドラマや映画でこの台湾語を耳にする機会が増えているが、それは台湾の人々のアイデンティティの高まりにも関係がある。このドラマに登場する落ち目の歌手、蔡順義も台湾語の歌手だ。彼がかつての栄光を再び取り戻そうとする姿は、この台湾語を見直そうという気運の高まりとリンクしているように見える。

 また、ネタバレになるので詳しい説明は避けるが、一行が緑島で遭遇する幽霊たちは、この島ならではの物語を背負っている。1949年から38年間にわたって「戒厳令」が敷かれていた台湾では、政府が反体制的だと見なした大勢の人々を投獄、処刑するのなど弾圧を行なった。この弾圧は「白色テロ」と呼ばれており、緑島にはかつて、白色テロの時代に政治犯として逮捕された人々が収容された監獄があった。施設は今も「白色テロ緑島記念園区」として遺されており、こうした歴史が島に埋蔵されているという金の存在と絡み合ってくる。

 このドラマは、エンターテインメントという形で、自由と民主を守るために信念を貫き、命を落とした人々の想いを受け継ぎ、本当の自由の尊さを訴えようと試みる。さらにポルトガルや日本による統治、政治的な長い抑圧の時代に想いを馳せ、台湾の人々が歩んできた苦難の道を思い出すよう、視聴者に語りかける。このあたりの背景については、2019年の台湾映画『返校  言葉が消えた日』(日本では2021年公開)にも描かれており、その大ヒットが話題になった。ホラー映画という形で台湾の負の歴史を描いた力作なので、機会があればこちらもご覧になってみてほしい。

 台湾の人たちのアイデンティティを色濃く盛り込んだ『緑島金魂』。最後に、そんな台湾への愛を全部乗せしたような歌詞のエンディング曲にも注目してほしい。歌うのは、蔡順義役のベテラン俳優・黄鐙輝。コミカルな歌詞と耳に残るフレーズが、しばらく頭の中でリフレインするはずだ。

■配信情報
『緑島金魂』(全6話)
みるアジアにて、8月31日(木)より毎週1話ずつ配信
原題:綠島金魂
©Taiwan mobile Eightgeman ltd.

■サービス情報
「みるアジア」
韓国・中国・タイBLといったアジアドラマの配給、VIDEO発売業務を手掛ける株式会社コンテンツセブンが運営する動画配信サービス。世界の名作ドラマを語学学習者にもおすすめの二か国語字幕(日本語+原語同時表示のオリジナル字幕)など、独自の字幕で配信している。
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