『転職の魔王様』は夢と現実の距離を測る 成田凌と小芝風花が見つけた“笑顔になれる仕事”

 説明が必要かもしれない。好きなことを仕事にすると笑顔になれると考えがちだが、必ずしもそうとは限らない。好きで始めたはずなのに、仕事で向き合っているうちに嫌いになってしまったり、好きなものに全力投球したら、疲弊してボロボロになっていたという話は少なからず耳にする。「好き」には落とし穴があって、「やりがい搾取」という用語もあった。

 「笑顔になれる仕事」は、ただ好きなのではなく、それによって幸せになれる仕事である。ただし、人間という生き物は、往々にして、何が自分にとっての幸せか自分ではわからない。夢や理想など遠くにあるものを見すぎた人は特に傾向があって、近くのものにピンぼけになりがちだ。だから、鏡のように自分を映してくれるアドバイザーにめぐり逢えた人は、とてもラッキーである。

 求職者に寄り添う千晴(小芝風花)は、来栖が自身を見つめる上で大きな助けになったけれど、それはもともと来栖が千晴に伝授したものでもあった(「正解はあなたにしかわかりません」)。その上で「来栖さんには笑顔でいてほしい」と相手の幸せを願えるのが千晴のすごいところで、過去現在のエピソードを通して、千晴は自身が凹んでいる時でも言葉や笑顔で励まそうとする「与える人」であり続けた。

 『転職の魔王様』は異色の作品で、ビジネスマナーで進行する会話劇のさなか、平穏な日常を打ち破るように魔王様が降臨し、辛口の本音トークが炸裂する。その緩急の付け方に特徴があった。また、ビジネスの現場やキャリアを通じた個人の生き方を丁寧に描き、令和のお仕事ドラマならではの解像度を備えていた。

 「答えを出したら、あとは残りの人生をかけてそれを正解にしていく」という洋子(石田ゆり子)の言葉もあって「夢の形は変わることもある」。変わった先にあるのが、その人の幸せの形なら言うことはない。職業選択の自由が保障された社会で、夢を追う人がいる限り、転職エージェントは存在するのだろう。世相を反映した『転職の魔王様』は正しく令和の転職ドラマだった。

■配信情報
『転職の魔王様』
TVer、FODにて配信中
出演:成田凌、小芝風花、山口紗弥加、藤原大祐、おいでやす小田、前田公輝、井上翔太、井本彩花、石田ゆり子
原作:『転職の魔王様』『転職の魔王様2.0』額賀澪 (PHP研究所)
脚本:泉澤陽子、小峯裕之
音楽:横山克、橋口佳奈
プロデューサー:萩原崇、石田麻衣、櫻田惇平
監督:堀江貴大、丸谷俊平、保坂昭一
主題歌:milet「Living My Life」(SME Records)
OPENING SONG:LIL LEAGUE from EXILE TRIBE「Monster」(rhythm zone)
制作協力:ホリプロ
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/tenshokumao/
公式Twitter:@tenshokumao
公式Instagram:@tenshokumao

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