『らんまん』未来へと繋いだ“想い” 宮﨑あおいの本編出演に“千鶴役”松坂慶子の再登場も

 ヒロインを演じた『純情きらり』から実に17年、『あさが来た』からは8年という月日を経て、3度目の朝ドラ出演となる宮﨑が演じるのは、藤平紀子という女性。役場で紹介されたとあるアルバイトに応募した藤平は、万太郎と寿恵子が想像していたような緑に囲まれた槙野邸を訪れる。そこで待ち受けていたのは三女・千鶴だ。演じるのは、万太郎の祖母・タキ役を務めた松坂慶子。その柔らかな物腰と藤平への優しい語りかけに、本田望結が演じていた頃の千鶴の面影がある。顔はそっくりだけど、千鶴からはタキが持っていた負けん気の強さや厳格な雰囲気は一切感じられない。

 そんな千鶴は藤平に万太郎の遺品整理を手伝ってもらうにあたり、彼女を寿恵子の未来予想図にあった標本館へ案内する。そこに保管されていたのは、膨大な数の植物標本。あの震災で多くの標本を失った万太郎だったが、再び集め直してここをたぬきの巣穴にしたのだ。全国の植物愛好家たちとのやりとりも続いていたのだろう。雑多に積み上げられた約40万点もの植物標本を東京都立大学に寄贈するにあたり、誰がいつどこで収集したものなのかを万太郎の日記やメモ書きを手がかりに改めて一つひとつ明らかにする気の遠くなるような作業が必要となった。「全く亡くなってからもお騒がせよね」という千鶴の呆れながらも笑みがこぼれるその口ぶりから、万太郎が最後の最後まで好きなことに一直線だったことが容易に伝わってくる。

 だが、藤平は万太郎と血の繋がらない赤の他人だ。植物学者でもない自分には無理だと判断し、一度は依頼を断って槙野邸を後にしようとした藤平。そんな彼女を引き留めたのは、風にたなびく「スエコザサ」だった。それはまるで「この先の世に残すもんじゃ!」と必死で標本を守ろうとした万太郎の思いを寿恵子が伝えようとしたみたいに。関東大震災、そして第二次世界大戦下の東京大空襲で燃え盛る炎の中、標本を守り抜いてきた一家。そのことに気づいた藤平は「次の方に渡すお手伝い、私もしなくちゃ」と千鶴の依頼を引き受けることを決める。過去と未来をつなげる2人のやりとり、そして大河ドラマ『篤姫』(NHK総合)を思い出す宮﨑と松坂の心と心を通わせる芝居に思わず胸が熱くなった。

 「たとえ作者が亡くなっても完結した物語は消えません」とかつて力説した寿恵子。人生は何を持って完結となるのか。それは寿恵子のように「やり遂げた」と思えた時なのかもしれない。今でも東京都立大学の牧野標本館には、20年の歳月をかけて整理された牧野博士の植物標本が所蔵されている。やり遂げた人の思いはそうやって消えることなく、人から人へと未来に託されてゆくのだ。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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