成田凌×小芝風花コンビは“自然体”で撮影 『転職の魔王様』プロデューサーに聞く制作秘話

 成田凌演じる転職エージェントの“魔王”こと来栖嵐が、小芝風花が演じる新米キャリアアドバイザーの未谷千晴とタッグを組んで、転職者の悩みを解決する『転職の魔王様』(カンテレ・フジテレビ系)が、9月25日に最終話を迎える。等身大の働く人にスポットを当て、社会派のトピックに切り込んだ本作について、萩原崇プロデューサーに話を聞いた。

“良い意味で力が抜けていた”成田凌と小芝風花

ーー魔王様も徐々にヴェールを脱いで正体を現し、ドラマを通じて千晴の成長を実感しています。ここまでの反響はいかがですか?

萩原崇(以下、萩原):働く人にどう感じてもらえるかが大きいドラマだと思っています。各話のシチュエーションに対して、「これは私だ」と自分のことのように思ってもらえる感想が多いですね。これから就活に臨まれる方や就活中の方からは、考えるきっかけになったと聞いていますし、働く人に届いた感じがしてうれしいです。

ーーキャリアアドバイザーが主人公という設定ですが、なぜこの作品を取り上げられたのでしょうか。

萩原:2年前くらいに原作を勧められて読んだのがきっかけです。コロナがひっ迫している時期で、自分の生き方やこれまでのあり方を、みんなが少し前から考えているタイミングだったと思うんですけど、自分自身、働き方や生き方について考えたり、年齢的にも人生の後半戦をどうしていくのがいいんだろうと考えていました。原作を読んで刺さる言葉が多かったので、自分以外にも響く人が多いのではと思い、このタイミングでやりたいと思いました。

ーー“魔王”こと来栖のキャラクターが強烈です。成田さんとは役作りについてお話されましたか?

萩原:初期段階から、監督を交えて話し合いました。来栖をどのように演じるか、成田さんはすごく悩んで考えてくれていました。ドラマ版は、原作よりも笑わない、得体の知れない感じがあります。原作ではもう少しニヒルで、ちょっとにやりとするキャラクターを感じていたのですが、逆にドラマでは、笑わないことを一つのキーワードにしました。現実にいそうなキャラクターとしてバランスを取りたいと話していたので、“魔王様”感を出すために、スーツの仕立てや杖などのビジュアルの面から説得力が出せるように話し合いましたね。足が不自由なところは、事故に遭って障がいをお持ちの方の歩き方や座り方を専門家の方に指導してもらいました。

ーー小芝さんは“社畜”キャラの千晴をすごくリアルに演じられているように感じました。

萩原:小芝さんは、以前も作品でご一緒させていただきました。千晴に関しては、いわゆる“社畜”的な振る舞いを「わかる」という人もいれば、精神的に支配される状態まで至ることを理解できない人もいると思います。その中で、小芝さんの応援したくなるキャラクターが、千晴を演じていただく上でとても助かっています。小芝さんが演じた千晴だから“社畜”になってしまうことも理解できますし、「頑張れ」と思いながら、千晴目線で観ることができるヒロインにしてくださったと思います。

ーー成田さんと小芝さんの演じられる感情のぶつかり合いや繊細な感情の機微が素晴らしかったです。撮影はどんな雰囲気で取り組まれていたのでしょうか。

萩原:良い意味で力が抜けていましたね。自然体なお二人という印象があって、さらっと、こういう感じで行こうかなと思ったら、それをやってみて、柔軟にキャッチボールで、こうやってみますね、と返すイメージです。お二人は4歳くらいの年齢差ですが、私の中で勝手に成田さんに30代半ばくらいの落ち着きを感じていて、小芝さんと兄妹みたいな感じになるかなと思っていたんですけど、撮影が始まってすぐくらいで、成田さんを小芝さんがすごくいじったり、同じように小芝さんの変なところを成田さんがいじったりして、近い目線にお二人が立ってくれました。現場でも、第1話のクライマックスは、道路際で突き落とすかと迫るすごい重いシーンで、私たちも撮影前は力が入って、どうなるんだろうと身構えていたんですが、演じる本人たちはひょうひょうとして、良い意味で力が抜けていました。重いシーンでも重くならずに撮影できて、風通しの良い現場の空気にしてくださった印象です。

ーー本作は転職を扱う各話完結のドラマですが、振り返ってみると、結果的に転職に至らないエピソードも多いですね。

萩原:必ずしも転職を勧めたいと思っているわけではありません。私自身が原作を読ませていただいて、人生のチューニングというか、今までのあり方を考えて、ここからはどうしていきたいかを考えるきっかけになったので、ドラマでも、同じように、観てくださった方が考えるきっかけになればいいなと思っていて。自分自身の選択を、もう一度考えてみませんかということです。転職して良かったという人もいれば、転職しなくてよかったという方もいるかもしれませんし、転職しなかったことも、自分で選んだ結末になればいいなと思ったので、転職をした回もあれば、しなかった回もある構成になっています。

ーーシェパードキャリアを訪れる求職者は、年齢や性別、キャリアや置かれた状況も千差万別で、多様性を感じました。各話のエピソードの選択は工夫されましたか?

萩原:ドラマ化しようと思った時、原作の1巻(額賀澪『転職の魔王様』)が出ている状態で、連続ドラマの分量としてはちょっと足りないと思ったので、オリジナルのエピソードも加えて、最終的な着地点を議論しました。ドラマの第4話と第5話で、来栖の過去にまつわる人物が出てきますが、本来、最終盤に持って行くのがドラマの定石だと思うんですけど、そこまで引っ張るより物語が進んでいく展開が出せるといいなというのをチームで話し合って。そうした時に、その先の展開として、来栖が自身の転職に悩む。最後に自分自身の転職の悩みがやれたらおもしろいと思うんです、と原作者に提案させていただいたら、ちょうど2巻(『転職の魔王様2.0』)を出そうとしていたタイミングで、「その結末は良いですね」と賛同していただけました。そこからさらに追加のエピソードを考えて、ドラマ版も全体のゴールが見えた感じです。各話のエピソードについては、登場人物が転職するかしないかも含めて、結末が毎回違ったように見える並び方を工夫したいと思っていました。後半の並び方は原作と違いますし、オリジナルも入っているので、ドラマとしても、転職してばかりでも、全然転職していないのでもなく、いろんな味があるように見えればと思いました。

ーー第9話では引きこもりやいじめ、学校の先生が辞めてしまう問題も織り込まれていました。現代的な視点をいくつも盛り込んでいるのも特徴ですね。

萩原:せっかく働く環境をドラマにするので、リサーチをして8050問題や教員の課題を入れました。あまり説教臭くはしたくなかったので、バランスは脚本家とも話をして決めた感じですね。第1話の社畜やパワハラは、すごく悲しいことですが、労働環境の中で王道の悩みというか、すごく昔からある話で、第7話の妊娠・出産で生じる職場の問題や、第6話で宮野真守さんが演じる不動産会社の営業職が独立を選択すること、第8話のフリーランスや職歴の空白など、ちょっとずつ今起きていることを入れられるといいなと思って作りました。

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