『ばらかもん』が示した“傷ついた大人の立ち直り方” みんなの“一声”が清舟を解き放つ

 小学2年生になったはいいが、小学1年生がおらず後輩が欲しいというなるたちは1年生歓迎会”ならぬ「1年先生歓迎会」として、清舟にサプライズを仕掛ける。子どもたちのハーモニカ演奏による「エーデルワイス」の賑やかな音に、手作りのメダル、そして目隠しをして連れて行かれた先には皆で購入したという大きな大きな半紙と、父親が使っているのと同じ大きな筆が待ち受けていた。

 皆が見守る中、広くて真っ白な空白に向き合った清舟。何をどう書くのが“正解”なのか、どうすれば他者からの“評価”を得られるのか、そんなことばかりが頭をもたげていた清舟はもうそこにはいない。そして、「お前らの書く字が俺の書く字だと思ってる(中略)。お前らが成長することが俺のやりたかったことだ」と、本心なんだろうけれど、どこか頑なまでに自分が一線に立つことを拒むような清舟でもない。弾むように無我夢中で書いた文字は「楽」。どこからどう見ても清舟は自由だった。無理が一切なく書道と向き合えており、そこに恐れはなかった。

 若手アイドルのゆな(椛島光)から“宝物が何か”聞かれ、「みんなからの一声」と答えた清舟が思い出された。「一声は人を変えるんだよ、全ては一声から始まった」という彼の言葉通り、島で出会ったすべての人が、自然が、触れ合いが清舟の血肉となっている。「楽」と書き終わった後、心底楽しそうな表情を見せた清舟は“生きる”ことの手触りや感触を噛み締めているかのようだった。

 一方、父・清明(遠藤憲一)が書いた「夢」には独特のかすれや滲みが含まれており、黒々とした迷いのない勢いとはまた異なる味が出ており、まるで清舟のこれまでの紆余曲折を内包しているかのようだった。そしてそれは自身とは異なる夢を追う息子へのエールのようにも、いつの間にか清濁併せ呑み自身の進むべき道を自力で決めた清舟を頼もしく誇らしげに見守る父の目線にも感じられた。

 「私のやる気に火をつけるのもあいつなんだよ」という清明の言葉も、そして「これからは楽しみながら書くつもりだ」という清舟のスタンスも、意図せず初心に返るタイミングまで同じで、似たもの同士の親子感が垣間見えた。清舟の隣にちょこんと並ぶ小さななるの背中が、一方的な庇護の対象ではなく、なんだか堂々としていて対等でフラットで、2人が重ねてきた、そしてこれからも続いていくのだろう名もなきかけがえのない時間に想いを馳せてしまった。

■配信情報
『ばらかもん』
TVer、FODにて配信中
出演:杉野遥亮、宮崎莉里沙、田中みな実、綱啓永、豊嶋花、近藤華、山口香緖里、飯尾和樹、田中泯、荒木飛羽、中尾明慶、遠藤憲一
原作:ヨシノサツキ『ばらかもん』(ガンガンコミックスONLINE/スクウェア・エニックス刊)
脚本:阿相クミコ、金沢達也
主題歌:Perfume「Moon」(Polydor Records)
企画:上原寿一
プロデュース:髙丸雅隆、高橋眞智子
演出:河野圭太、植田泰史、木下高男、北坊信一
制作協力:共同テレビジョン
制作著作:フジテレビジョン
©︎フジテレビ
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