『VIVANT』は日曜劇場を“超える”結末に ノゴーン・ベキではなく“乃木卓”としての最期

『VIVANT』は日曜劇場を超える一作に

 スケールの大きな映像と冒険活劇に、これまでの日本のテレビドラマにはなかった可能性を感じていた立場としては、スケールダウンしたようにも見えるが、そもそも物語冒頭で広大な砂漠をスーツとネクタイで歩くいかにも日本のサラリーマンという風貌の乃木が登場させた時点で、日曜劇場的な企業ドラマと冒険活劇を融合させることで新しいドラマを作りたいという願いが作り手にはあったのだろう。

 世界を動かしているのは経済活動であり、商談による利害調整の先にしか、価値観の違う他者との共存は成立しないというビジネスマン的な価値観が、日曜劇場で作られてきた企業ドラマには存在しており、だからこそ多くの日本人に支持されるドラマコンテンツへと成長した。

 その「日曜劇場イズム」を日本人の美学として昇華したのが、フローライトの採掘権を獲得するために、これまで敵対していた仲間たちが一致団結する姿だったのだろう。

 この採掘権をめぐる戦いだけで本作が終わっていれば、見事な大団円である。だが、そこで終わらないのが『VIVANT』の奥深さである。

 交渉を成功させたベキは、幹部のバトラカ(林泰文)、ピヨ(吉原光夫)と共に、公安に投降し、日本へ搬送される。しかし、3人はテントのモニター(工作員)だった公安の新庄浩太郎(竜星涼)の協力で逃亡。ベキの真の目的はバルカで乃木家を見捨てた元・公安部外事課長で現・内閣官房副長官の上原史郎(橋爪功)への復讐だった。

 ベキの真意を知った乃木は暗殺を阻止するために3人を銃で射つ。しかしベキの銃には弾が込められておらず、息子の憂助が自分たちを止めることを見越しての凶行だった。

 国と家族の間で引き裂かれ「どちらを選ぶべきか?」と憂助は苦しんだが、それは父親のベキも同じだった。フローライト採掘をめぐってベキの葛藤は解消されたように見えたが、妻を失った悲しみと復讐心は最後まで消えなかったのだ。

 国や組織のためではなく、亡き妻のために凶行に及んだベキに行動はとても私的な振る舞いで、息子の憂助に自分を殺させることも含めて、極めてエゴイスティックな決断だと言える。それは決して許される行為ではないが「人は簡単に変わることはできないよなぁ」と彼の結末に、どこか納得している自分がいた。

 最後の最後で彼は、テントのリーダーのノゴーン・ベキとしてではなく、乃木卓として死のうとした。日曜劇場的な団結と対比する形で描かれた私的な復讐の悲しい末路は、国と家族の分裂を描き続けてきた『VIVANT』らしい結末だったと感じる。

■配信情報
日曜劇場『VIVANT』
TVer、U-NEXTにて配信中
出演:堺雅人、阿部寛、二階堂ふみ、竜星涼、迫田孝也、飯沼愛、山中崇、河内大和、馬場徹、Barslkhagva Batbold、Tsaschikher Khatanzorig、Nandin-Erdene Khongorzul、渡辺邦斗、古屋呂敏、内野謙太、富栄ドラム、林原めぐみ(声の出演)、二宮和也、櫻井海音、Martin Starr、Erkhembayar Ganbold、真凛、水谷果穂、井上順、林遣都、高梨臨、林泰文、吉原光夫、内村遥、井上肇、市川猿弥、市川笑三郎、平山祐介、珠城りょう、西山潤、檀れい、濱田岳、坂東彌十郎、橋本さとし、小日向文世、キムラ緑子、松坂桃李、役所広司
プロデューサー:飯田和孝、大形美佑葵、橋爪佳織
原作・演出:福澤克雄
演出:宮崎陽平、加藤亜季子
脚本:八津弘幸、李正美、宮本勇人、山本奈奈
音楽:千住明
製作著作:TBS
©︎TBS

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