『VIVANT』が描く“帰るべき場所” 堺雅人演じる乃木が任務と肉親の情に引き裂かれる

 日曜劇場定番の「敵は味方のフリをする」。出典は『小さな巨人』(TBS系)であるが、別班を裏切ったかに見えた乃木が、実は裏切っていなかったことは、劇中の人物以上に視聴者を惑わせるものだ。ただし、この場合、必ずしも乃木は裏切ったと言えない。別班と父親であるベキのどちらも乃木にとって代替不可能な存在であり、両者の間で引き裂かれているのが乃木という人間だからだ。乃木が別班の4人を殺害したように見せてテントに投降したこと、別班として任務遂行のために潜入したことの両方ともに乃木の偽らざる本心である。あえて言うなら、薫(二階堂ふみ)に家と全財産を託したことから推察できるように、乃木は最初から死ぬつもりで父親に会いに行ったことになる。

 裏切りと信頼の先にある絆を本作は描こうとしているように見える。また、作品全体として、故郷あるいは「帰るべき場所」を意識していることは確かだ。それが国なのか、家族や愛する人かという視点の違いはあっても、別班、テロリスト、公安というアイデンティティと密接につながった成り立ちの組織で、帰属意識を持ちながら、時に組織から切り離された痛みと疎外の感覚が作品中に漂う。愛する者を守らなければならない。そのために武力さえ否定しない、という日本のドラマが持ちえなかったリアリズムを『VIVANT』ははらんでいる。その言外のメッセージをどう受け止めるかは私たち次第である。

■放送情報
日曜劇場『VIVANT』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:堺雅人、阿部寛、二階堂ふみ、竜星涼、迫田孝也、飯沼愛、山中崇、河内大和、馬場徹、Barslkhagva Batbold、Tsaschikher Khatanzorig、Nandin-Erdene Khongorzul、渡辺邦斗、古屋呂敏、内野謙太、富栄ドラム、林原めぐみ(声の出演)、二宮和也、櫻井海音、Martin Starr、Erkhembayar Ganbold、真凛、水谷果穂、井上順、林遣都、高梨臨、林泰文、吉原光夫、内村遥、井上肇、市川猿弥、市川笑三郎、平山祐介、珠城りょう、西山潤、檀れい、濱田岳、坂東彌十郎、橋本さとし、小日向文世、キムラ緑子、松坂桃李、役所広司
プロデューサー:飯田和孝、大形美佑葵、橋爪佳織
原作・演出:福澤克雄
演出:宮崎陽平、加藤亜季子
脚本:八津弘幸、李正美、宮本勇人、山本奈奈
音楽:千住明
製作著作:TBS
©︎TBS

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