吉川晃司が『キングダム 運命の炎』に刻む“最強像” カリスマ性が生み出す強烈な“うねり”

 その男の登場に、劇場内の誰もが息を呑んだ。それまで安心してスクリーンを見上げ、主人公・信(山﨑賢人)たちの活躍に胸を躍らせていたものの、高揚した気分は一瞬にして打ち砕かれたーー。そう、その男とは龐煖のこと。『キングダム 運命の炎』がもうすぐ幕を閉じようとしているときに彼は現れ、信たちや私たち観客に絶望を与えたのだ。演じているのは吉川晃司である。

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 この『キングダム 運命の炎』は、2019年にスタートした『キングダム』シリーズの第3弾。今回は少し変わった作りで、前半パートでは秦国の王・嬴政(吉沢亮)が「なぜ“中華統一”を目指すようになったのか?」が描かれ、後半パートでは信が「百人将(100名の兵を率いる隊長)として趙軍の副将・馮忌(片岡愛之助)を討つ」までが描かれる。

 嬴政の王としての強き意志に胸を打たれ、信とその仲間たちの活躍に大興奮。天下の大将軍・王騎(大沢たかお)の登場もあり、アツい展開が続く。が、しだいに秦国と趙国の戦いの背後に何やら強大で恐ろしい存在があることを私たちは知る。それが龐煖というわけだ。彼は王騎にとって因縁の相手でもある。つまり龐煖とは、実際に姿を現すのは最後の最後だけなものの、“最初からいた”のである。

 こういった役どころはじつに難しい。いくら演じる高い技量を持っていようとも、それだけではこのようなキャラクターは成立しない。龐煖とは“武神”ともいわれる存在だ。“最強”というものを、作劇や演出によって生み出すことはいくらでもできる。そしてそれを演じることは誰にだってできる。だが、真に体現するのは一筋縄ではいかない。そこで物を言うのが演じ手のパーソナリティである。吉川は「俳優」である以前に、「ロックミュージシャン」なのだ。俳優一筋の人々が多い中にこうした人物がいると、非常に目立つ。異なる文脈を背負っている人は、発するカラーも異なるのだ。

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