吉沢亮、『キングダム』に刻んだ嬴政の覚醒の瞬間　過去と現在の“2役”で見事な演じ分け

　いま、吉沢亮がアツいーーなんていつものことなのだが、この夏は特にそうなのだ。メインキャストの一人として出演した『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』に続くかたちで『キングダム 運命の炎』が公開され、仲間たちとともにスクリーン上で大立ち回りを演じているところなのである。どちらも大人気マンガを原作としたヒット作のシリーズ第3弾。そう、いま、吉沢亮がアツいのだ。

　2019年公開のシリーズ第1作『キングダム』にて吉沢は、主人公・信（山﨑賢人）の幼なじみであり親友である漂と、玉座を奪われた秦国の王・嬴政の二役を演じ分け高い評価を得た。前者は戦災孤児の下僕であり、後者はその身分を奪われているとはいえ国王だ。彼らは瓜二つだが、そこには大きな違いがある。生まれも育ちも異なるため、口にする言葉にも所作にも圧倒的な違いがあって当然だ。信と同じく野性的な漂と、王としての品格を持った嬴政。彼らのセリフや衣装が異なるのはもちろんだが、それらを用意されたままに演じるだけでは激動の時代に翻弄される者たちの人生を体現することなどできはしない。吉沢は発する語調や身のこなしといった細部にこそキャラクターの人格を宿らせていた。

　第一作目の物語の軸がその身を挺しての「王座奪還」であったのに対し、第2作『キングダム2 遥かなる大地へ』（2022年）では戦場に立たなかったため、両作を比較すると後者での方がどうしても印象が薄かったものだ。しかし今作『キングダム 運命の炎』の前半部分では「嬴政が“中華統一”を目指すようになった原体験」が描かれるため、彼の主人公タームだともいえる。そしてまたしても吉沢は、“1人2役”をやってのけているのだ。

　とはいえ、漂と嬴政のようなまったく異なる2人の人物を演じているというわけではない。嬴政の過酷すぎた過去の姿を演じているため、現在の姿と照らし合わせたときに“1人2役”のように映るのだ。

　かつて嬴政は、敵対する趙国で人質として苦しい生活を強いられていた。民衆の怒りがまだ幼い少年である嬴政に向かい、日常的に暴力の対象に。その結果、彼は人間らしい心を失ってしまった。演じる吉沢にはほとんど表情というものがなく、瞳には光が感じられない。人間に絶望し、世界に絶望していた点に目を向ければ、かつての漂よりもひどい状態である。しかしそんな彼に一筋の光明が差す。杏が演じる趙国の闇商人・紫夏との出会いだ。