『どうする家康』石川数正はなぜ“裏切り者”となったのか? 松重豊が体現した渾身の“愛”

 戦なき世を作る、この世を浄土にする、そう強く誓い、行動を起こそうとする家康の覚悟を前に、数正は「覚悟を決め申した! もう一たび、この老体にむち打って大暴れいたしましょう!」「我らの国を守り抜き、我らの殿を天下人にいたしまする!」と声をあげた。その力強い声色は、これまでにないほど、そして、どことなく違和感を覚えるほど明るく響いた。

「私は、どこまでも殿と一緒でござる」

 一度目は家康の目を見て、二度目は去り際に念を押すようにしてこう言ったはずの数正は、「関白殿下、これ天下人なり」といった書き置きといびつな木彫りの仏を残し、出奔した。

 今思えばあの違和感は、家康に対し遠慮なく正直な意見を述べる数正が嘘をついたのではないかと考える。とはいっても、数正の言葉自体に嘘はない。数正が言った通り、数正の心はいつだって家康とともにある。思えば、関白という権威を振りかざし、心理的圧力を与えてくる秀吉の前でさえ、数正は「恐れながら、我が主は徳川三河守でございます」「我が主は和睦しただけ、臣下の礼をとってはおりませぬ」と秀吉との間に線を引いていた。化け物となった秀吉から、愛する国と殿を守るためにはどうすべきか。数正は、家康や家臣たちが秀吉に向ける敵意を、自分に向けることを選んだのではないだろうか。「私は、どこまでも殿と一緒でござる」という文字通りの本心を押し殺して、秀吉のもとへ走ったのではないか。決して自身の感情に素直ではない数正らしい、家康に対する愛情の向け方といえる。

 なお、第33回では、前作『鎌倉殿の13人』(NHK総合)での上総広常役が記憶に新しい佐藤浩市演じる真田昌幸や、真田信幸(吉村界人)、真田信繁(日向亘)、秀吉の正妻・寧々(和久井映見)が登場した。特に、和久井演じる寧々は秀吉やその弟・秀長(佐藤隆太)とは一味違う礼儀正しさを感じさせながらも、その妙に落ち着いた佇まいからは、秀吉同様、人心を巧みに掴んで離さない力があるように思えた。公式サイトには“豊臣と徳川をつなぐ政治家の一面も持つ”とある。寧々の動きも見逃せない。

■放送情報
『どうする家康』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:松本潤
脚本:古沢良太
制作統括:磯智明
演出統括:加藤拓
音楽:稲本響
写真提供=NHK

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