『響け!ユーフォニアム アンサンブルコンテスト』の物語ともシンクロする京アニの挑戦

 それは今作でも如実に表現されていた。過去作でシリーズ演出を担当した山田尚子など、幾人ものメインスタッフが入れ替わっており、まさに新しいスタートを切る作品にも関わらずだ。パンフレットでは総作画監督を務めた池田和美が、石原立也監督の厳しい指導の元で「これからは自分が正解を示す立場にならないと、というのはプレッシャーでしたね」と明かしている。池田は過去の京アニ作品でも作画監督を務めた、アニメファンならば誰もが力量を認めるアニメーターだが、それでも新しい立ち位置に苦悩している様子が分かる。

 もちろん、池田だけではないだろう。作画監督や美術監督などを各パートリーダーとし、メンバーたちと共にアニメ制作を行なっていく姿こそが、作中で新たに部長になった久美子や北宇治高校吹奏楽部のように、新しいメンバーや制作体制の中で自分たちなりの演奏、つまりアニメ表現を模索していこうという気概を感じた。

 特に今作はOVA扱いということで、TVシリーズと比較しても2話分と少しほどの尺となり、過去作に比べると短い。今作は制作にあたったスタッフの人数が絶対的に少ないというほどではないが、それでも劇場版やTVシリーズ全体と比較したら少ないと言っていい。それこそ、この作品そのものが少人数で演奏するアンサンブルコンサートであり「少人数だから意外な人が上手かったりする」というセリフが示すような出来事もあったのではないか。

『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』本編オープニング映像

 同時に、心機一転した新しい作品だから過去を蔑ろにするのではない、という気持ちもOP映像から感じ取ることができた。OP映像では過去の名シーンを含めた映像が写真として紹介されていく。過去を全て内包しつつ、新たな作品を生み出す気概がこもっている。

 また、どうしても人数が多い吹奏楽という題材上、主役は久美子であり、スポットが当たるメンバーも限られているが、残りの吹奏楽部員も決してモブではなく、名前も個性も宿った1人の人物となっている。これは第1期から徹底されている方針であり、制服の着こなしなどのルックス面や、写真の写り方でも個性が感じ取れる。本作でもこの姿勢を当然のように踏襲しつつ、最も活きた作品なっている。

 ここから最終楽章となる久美子3年生編が2024年の4月より放送されることも発表されている。各々の個性がぶつかりながら、団体が調和していき奏でられる音楽の素晴らしさを、音響・映像の両面から描いており、もはやアニメ史に残るシリーズと言っても過言ではない『響け!ユーフォニアム』。京アニが紡いできた約10年のフィナーレが、いよいよ始まる。

■公開情報
『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』
全国公開中
原作:武田綾乃(宝島社文庫『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のホントの話』)
監督:石原立也
副監督:小川太一
脚本:花田十輝
キャスト:黒沢ともよ、朝井彩加、豊田萌絵、安済知佳、石谷春貴、大橋彩香、藤村鼓乃美、山岡ゆり、種﨑敦美、東山奈央、雨宮天、七瀬彩夏、久野美咲、杉浦しおり、櫻井孝宏
キャラクターデザイン:池田晶子
総作画監督:池田和美
楽器設定:髙橋博行
楽器作画監督:太田稔
美術監督:篠原睦雄
3D美術:鵜ノ口穣二
色彩設計:竹田明代
撮影監督:髙尾一也
3D監督:冨板紀宏
音響監督:鶴岡陽太
音楽:松田彬人
音楽制作:ランティス、ハートカンパニー
音楽協力:洗足学園音楽大学
演奏協力:プログレッシブ!ウインド・オーケストラ
吹奏楽監修:大和田雅洋
主題歌:TRUE「アンサンブル」
アニメーション制作:京都アニメーション
製作:『響け!』製作委員会
配給:松竹ODS事業室
©︎武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024
公式サイト: https://anime-eupho.com/
公式X(旧Twitter):https://twitter.com/anime_eupho
公式TikTok:https://www.tiktok.com/@anime_eupho

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