『響け!ユーフォニアム アンサンブルコンテスト』の物語ともシンクロする京アニの挑戦

京アニの挑戦が見える『ユーフォ』最新作

 8月4日より『特別編 響け!ユーフォニアム アンサンブルコンテスト』が公開された。シリーズ作品としては4年ぶりの新作ということで、ファンの期待値も高まっている中で、Filmarksの初日満足度ランキング1位を獲得するなど、確かな結果を残した。本稿では本作の魅力とともに、京都アニメーション(以下、京アニ)の“アンサンブル”ともいえる挑戦について考えていきたい。

『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』本予告

 本作は、武田綾乃が原作を務め、京アニが制作を担当した『響け!ユーフォニアム』シリーズの最新作だ。TVアニメ第1期が2015年に放送されて以降、TVアニメは第2期、劇場版は総集編映画も含め複数作が公開されるなど、京アニ作品の中でも人気の高いシリーズとなっている。

 京都の宇治市を舞台に、北宇治高校吹奏楽部の黄前久美子を主人公とした群像劇が展開される。久美子はTVアニメ第1期では高校1年生だったが、本作では高校2年生となり、吹奏楽部の部長に任命される。役職に就いたことで部内をまとめようと奮闘する久美子を主軸に、吹奏楽としては小規模な、数人で構成されるアンサンブルコンテンストの部内選考の様子が描かれていく。

 公式ビジュアルのキャッチフレーズの「チューニング、OK」が示すように、2024年4月より放送されるTVアニメ第3期に向けての助走であり、チューニングを合わせるような作品となっている。注目ポイントは、第3期で描かれる出来事の種を蒔きながら、久美子が部長としてどのように振る舞うべきか、悩む姿だろう。

 一般企業でも通じることだが、優れたプレイヤーがそのまま優れたトレーナーやマネージャーになるわけではない。作中でも卓越したトランペット奏者である高坂麗奈の指導では、釜屋つばめのような、成長途上の奏者に焦りを生んでしまい却って萎縮させてしまうシーンがある。一方で久美子はつばめの課題に気がつき、アドバイスを送ることで飛躍的な成長を促していく。久美子の1つの才能の芽生えを感じさせる描写だ。新たに部をまとめる立場となった中で、実力の異なる部員1人1人にどのような接し方をしていき、全体をまとめていくのか。この久美子の細やかな気づきと部員への成長を促す姿勢が、今後の第3期や卒業後の進路にも影響を与えてくることを想起させる。

 京アニといえば細やかな人物表現が話題にあがるが、今作の映像表現も卓越している。吹奏楽を中心とした作品ということもあり、演奏シーンが特に話題に挙がりやすく、過去作では吹奏楽一曲全ての演奏シーンをアニメーションで表現したことも話題となった。今作は全58分の尺の短さに加えて特別編ということもあり、演奏シーンそのものの描写は限られていたものの、卓越した日常表現の丁寧な芝居は健在だ。

 例を挙げると、廊下でコンテストのメンバー集めについて悩んでいる久美子の元に、加藤葉月が登場するシーン。メンバーを誘うものの断られてしまい難航する中で、葉月が説得を請け負うシーンだ。ここでは引きの絵が使われており、窓の外から廊下全体が見渡せる映像となっている。そこで勢いよく走り出した葉月が、先生が目の前にいることに気がつき、注意されたのか歩き出す。ほんの2、3秒ほどの細かい描写であり、セリフもないシーンであるが、葉月の元気なキャラクターを説明する上手い芝居と細やかさに、京アニの力がよく分かる。

 筆者は特に近年の京アニ作品からは、団体で何かを作り出す・表現する楽しみや苦悩を感じ取ることが多い。『ツルネ』や『Free!』シリーズは弓道・水泳と個人競技ではあるが、団体戦を中心に描くことで、次の人に繋げる尊さや集団で何か1つの結果を生み出す快感を描いている。そして『響け!ユーフォニアム』シリーズは団体で行う吹奏楽ということだけあって、その色合いはさらに濃い。

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