『ハート・オブ・ストーン』は『M:I』シリーズと似て非なる? ガル・ガドットの勇姿を堪能

 だが本作は、『ミッション:インポッシブル』シリーズと根本的に異なっている部分がある。それは、常軌を逸したアクションシーンを完成させようとするトム・クルーズのような存在がいなかったり、監督の個性がそれほど突出していないというところだ。とはいえ、トム・クルーズのような俳優の存在自体が奇跡であるため、そこを基準にしては酷なのだが……。

Courtesy of Netflix © 2023.

 アクションシーンそのものも、『ミッション:インポッシブル』シリーズや『007』シリーズ、『ハートブルー』(1991年)『ブラック・ウィドウ』(2021年)などを想起させる趣向のものが多く、アクションにおける、この作品独自といえる試みは、冒頭のナビゲーションを主体とした映像表現や、瞬間的に盛り上げる劇伴の演出くらいしか思いつかないのが、正直な印象である。

 少し前は、女性スターが堂々とアクション大作の主演を張るというだけでも満足感が大きかった。だが、そこに目新しさやより大きな臨場感を求めてしまうというのは、前述したように女性のヒーローによるアクション大作映画が、全く珍しいものではなくなっていることを意味しているのかもしれない。そう考えれば、この贅沢な意見というのは、映画界にとっては良い傾向であるからこそ出てきてしまうものと思うこともできる。だからこそプロデュースを含め、周到な準備をして製作に望んでほしいとも思うのだ。

Robert Viglasky/Netflix © 2023.

 一方、本作にはアクション以外の面で見るべき部分がある。それは、仲間同士の思いやりや、とりわけ女性同士の連帯が描かれている点だ。本作のタイトルになっている「ハート・オブ・ストーン」というのは、「石の心」……すなわち“冷酷さ”を表す言葉でもある。そんな言葉とは裏腹に、ガドット演じるレイチェルは、任務とはいえMI6チームのメンバーたちを騙してしまっていることに葛藤をおぼえ、自分の命をかけてでも救おうとしてしまうのである。

 彼女がそんな気分になってしまったというのは、メンバーたちがレイチェルをいつも気遣い、絶えず親身な態度を見せていてくれたからだろう。そんな優しさは、レイチェルを通し、他の登場人物にも広がっていく。“世界の平和”とは、じつはこのように小さな思いやりや気遣い、他者への想像力によって成り立つものなのではないか。本作の細部に込められたさりげない優しさや、連帯の重要性には、そのようなメッセージが込められていると思えるのである。

■配信情報
『ハート・オブ・ストーン』
Netflixにて配信中
Robert Viglasky/Netflix © 2023.

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