『トランスフォーマー/ビースト覚醒』の驚くべき挑戦 描かれたブルックリンのリアル

 一方、ノアとともにオートボットの戦いに協力する、博物館にインターンとして勤めるエレーナ・ウォレスを演じる、ドミニク・フィッシュバックもまた、本人、役柄ともにブルックリン出身だ。アフリカ系であるエレーナは、自分の能力に見合わない仕事しか与えられず不満を覚えている。舞台となる時代は、いまよりも人種差別、女性差別が深刻な状態だった90年代……ノアやエレーナは、さまざまなハードルを越えなくては、白人と同じ待遇や職を得ることは困難なのである。

 90年代に初めて、ブルックリンは白人よりも有色人種が多く住む地域となった。そういった場所に住む、これまで差別的な待遇を受けてきた二人が、世界の全ての人々を救うために尽力する。この設定だけでも、本作にはこれまで以上に熱い血が通っているように感じられるのだ。(※)

 本作を手がけたスティーヴン・ケイプル・Jr.監督は、アフリカ系アメリカ人でラテン系でもあるという。つまり、本作には監督のアイデンティティが込められているということが理解できる。1990年代を舞台にしたのは、TVアニメ『ビーストウォーズ 超生命体トランスフォーマー』の放送時期だったということが考えられるが、もう一つは、1988年生まれの監督の原点となる時代だったという理由もあるのだろう。

 スティーヴン・ケイプル・Jr.監督が最初に大きく注目されたのが、インディペンデント作品『The Land(原題)』(2016年)だった。この作品が、オハイオ州クリーブランドで車を泥棒したティーンエイジャーたちの物語だったことを考えると、監督は『The Land(原題)』のブルックリン版を、かなりの部分で『トランスフォーマー』の世界観に移植したということになる。その充実した内容が、ペルー到着以降の世界観とあまりにも乖離しているという問題はあるものの、どうしてもエモーションに引っ張られてしまうのは、そこに監督のクリエイティブにおける本質的な衝動が隠されているからではないか。

 そんなブルックリンの魂を表現するため、本作では音楽が大きな役割を担っている。主要な俳優が実際にブルックリン出身であるように、本作で使用されているヒップホップは、ニューヨーク出身、もしくはニューヨークを活動拠点としていたアーティストで占められている。『The Land(原題)』のプロデュースやサウンドトラックを担当し、すでにスティーヴン・ケイプル・Jr.監督とは強い結びつきがあるNas(ナズ)をはじめ、ノトーリアス・B.I.G.、ウータン・クラン、Q-Tip、LL・クール・Jなど、90年代ニューヨークの代表格となるアーティストによる、「ブームバップ」と呼ばれる、東海岸独特のビートが強調される緊張感あるサウンドによって、本作の雰囲気はかたち作られているのだ。

 いま、こんな伝説となった90年代のサウンドを、まとめて大作映画で味わえるとは、誰が予想することができただろうか。とくに、犯罪多発地区の現実をリアルに表現したウータン・クランの「C.R.E.A.M」とともに、ノアたち家族の日常描写が開始されるシーン、LL・クール・Jの「Mama Said Knock You Out」が流れるなか、あるオートボットが活躍する描写も印象的だ。このような硬質的な力強さこそが、当時のニューヨークのパワーとなっていた、マイノリティによる創造性の結晶であり、それが世界の命運を握るソルジャーとなっていくノアに受け継がれるという趣向が、本作の肝といえるだろう。

 さて、本作『トランスフォーマー/ビースト覚醒』の続編が、早くも計画されているという。スティーヴン・ケイプル・Jr.監督が続投の交渉段階にあるということだが、これが実現すれば本作同様、再び都市のリアルが描かれる、異質の『トランスフォーマー』となりそうだ。

参照

※1. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%A8%E3%83%BC%E3%82%AF%E5%B8%82%E3%81%AE%E4%BA%BA%E7%A8%AE%E3%81%A8%E6%B0%91%E6%97%8F%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2
※2.https://lp.p.pia.jp/article/news/277181/index.html?detail=true

■公開情報
『トランスフォーマー/ビースト覚醒』
全国公開中
監督:スティーヴン・ケイプル・Jr.
製作:ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラ、スティーヴン・スピルバーグ、マイケル・ベイ
出演:アンソニー・ラモス、ドミニク・フィッシュバック
吹替キャスト:中島健人、仲里依紗、玄田哲章、子安武人、藤森慎吾、高木渉、柚木涼香、本田貴子、ファイルーズあい、武内駿輔、飛田展男、三宅健太
配給:東和ピクチャーズ
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